伸びたペニス?  by 冬二等兵 その3





 







 僕は一生懸命に腰を振って、その先で四つん這いになっている彼女に応えている。その下のシーツと同化しそうな程白い背中を見、その手前にある尻を押さえながら挿送を繰り返す。
 ぶち当たるその度に彼女は小さく喘ぎ、一度も声を絶やさない。
 まるで体内に引き寄せる様な膣の動きに耐えていられるのは時間の問題で、僕はとびきり奥深くに挿し込むと、大きく背中を丸めて射精する。
 彼女も同時に絶頂を迎えたようで、顔を押し当てた背中越しに歓びを叫んだ。

 ペニスは温かい粘液に包まれながら、役目を終えて彼女から出て行く。僕は汗を幾筋の這わせた背中にキスをすると、目を瞑って余韻に浸る。彼女の白い背中は、マッサージ機の様に小刻みに震える。
 痺れる様な快楽を得た後、僕はシャワールームに向かった。

 今日は久し振りだったせいか四回もやってしまい、自分で少し呆れていた。最も、彼女も久し振りだったせいか乗り気で、恐らくは今ベッドの上で僕と同じ様に自分に呆れているかもしれない。こうなる事を予見して、郊外にあるラブホテルを借りておいて良かった。自宅があるとはいえ四回も続けてやると、その音を近所に察知される。そもそも他の言えない事情があって、自宅は使用不可だった。僕は重いガラス戸を引いてシャワーボックスの中に入り、重たい蛇口を捻ってお湯を出した。ふと何の気無しに左手で頭髪を弄ると、彼女の吹いた潮が乾いてパサパサになっていた。クンニした時の舌の感触を反芻すると、僕はシャワーに頭を突っ込んだ。

 ボディーソープもシャンプーも、その隣にあった安いリンスも使って念入りに体を洗うと、僕は扉に付いている金属の手すりを押した。
「あれっ?」 一瞬何が起きたのか分からず、二度目に押してみて初めてその異様さに気が付いた。
 扉は開かなかった。鍵は付いていないので、頭の中にたてつけの悪さが過ぎった。きっとそうに違いない、と思った僕は肩をガラスに付けると、足で踏ん張って扉を押した。
 扉はぴくりとも動かず、心は激しく揺れた。

 咄嗟に僕は扉を叩き、シーツに包まれて背中を向けている彼女に助けを求めた。何の前触れも無く開かなくなった理不尽なガラス戸を幾ら叩いても彼女は振り向かず、それでも僕は叩き続けた。突然、さっきと同じ様な感覚が体を走った。ガラスが割れたか終に開いたかを希望し、僕はガラス戸を確かめた。しかしガラス戸は依然変わらぬ状態で、代わりに自分が先程踏ん張っていた床が無かった。僕は手すりに縋る間も無く、水が滴る奈落の底に落ちていった。

 本当は一瞬だとしても、自分には大分長い時間で、彼女が映る走馬灯が沢山流れた。
 初めて出会った彼女、ミルクココアを奢ってあげた彼女、告白に応えた彼女、初めてのセックスをした彼女、仕事の都合で上海に行った彼女、帰ってきて交わったさっきの彼女。
 まるで結婚式に流れる映像の様で、それが終わると僕は粘質の水の中に落ちた。その瞬間激しい痛みに襲われて、僕は気絶した。

 気を完全に取り戻すまで時間がかかった僕は、自分が全裸で籐椅子に縛り付けられていることにも中々気が付かなかった。それ以上に有り得ない光景が広がっていることは、心が落ち着いて柔軟になるまで分からないことだった。僕の股間の一物には無数のロープが何本もきつく縛り付けられ、その端を籐椅子の周囲に括り付けられていた。まるで蜘蛛の巣。自分でも見た事の無い長さに引き伸ばされている自分の物はうっ血し、その先端は見るに耐えない紫色に変貌していた。見ないように他の場所を見ようと辺りを見回したが、頭上に光る電球と椅子、それに地面のコンクリートしか目に入らなかった。
 コツリ、コツリ。コンクリートの奥からこちらに向かって、硬い足音が響いてきた。暗闇から人影が現われ、だんだんと鮮明になって、最後にそれは彼女の姿となった。彼女は所謂女王様の様な格好をして、厳つい黒革の服をタイトに着こなしていた。そして彼女の左手には大きなナイフが握られていた。

 端から見ればさぞSMチックな雰囲気だろうと思った僕は彼女に「何だいこれ、そういう趣味だったっけ。上海行っている間に仕込まれたのか?」と言った。
 訳の分からない事が起きていた僕は、つい乱暴な言葉遣いをした。
「そうだとしても、あなたは怒れないわ。あなたもやっていたでしょう、私の居ない間に散々」

 彼女は僕を見下してそう言うと、僕の背後に回り込み、籐椅子の背中をナイフで切り外した。その籐椅子に空いた穴は大きく、うっかりすると後ろに倒れこみそうになる程だった。その位に不安にさせる彼女の発言でもあった。
「浮気? するもんか。したもんか。僕はずっと一人で君の帰りを待っていたんだ。そんな可笑しな事をする前に、早くこの縄を解いてくれ」
 不思議な感覚だった。あれ程縛られている筈の一物は、全く痛みを感じなかった。その感覚が逆に気持ち悪く、縄を解いて欲しいのは本当だった。

「本当の事を話したらね。その前に、私の本当の話をしておくわ」
 彼女は僕の後ろに立ち、上海での生活を事細かに話し始めた。どうやら、上海にセフレがいたらしい。
 名前は段、彼のセックスはすさまじいらしく、彼女が淫悦に浸るのを助けていたと言う。
 それでも僕に対する恋心は失っておらず、彼の求婚を振り切って日本に戻ってきたらしい。彼女はセックスの詳細を生々しく語り興奮を覚えたが、肝心の一物はぴくりとも反応しなかった。話し終わった後、彼女に陰茎のことを尋ねると、どうやら麻酔を打っているらしかった。

「私が我慢して帰ってきたのに、それなのに貴方は今も精神的な浮気をしている」
 そう言うと彼女は、僕の座る籐椅子を後ろに倒した。僕は体がコンクリートに当たる事を予測したが実際はそうでなく、先程の様な深い穴が背中越しに広がっていた。体を支えるのは、座面に接したふくらはぎと伸びきったペニス。僕は気が狂いそうだった。彼女は僕の横に来てしゃがむと、座面をナイフで切り離し始めた。僕は精一杯のたうち回り、彼女を散々に罵倒した。しかしそれでも彼女のナイフは止らず、終に自分を支えるものは一つ、無感覚のペニスだけになった。それは恐らく非常に情けない光景、籐椅子のフレームに巻きつけられた縄に支えられ、ペニスを見た事も無い形状にしてぷらぷらと揺れていた、まるで滑落して命綱で生き留まった登山家の様に。

「さてと、洗いざらい話して」
 成す術を失った僕は、一応の事を語った。僕にもセフレが居て、彼女が居ない間、性欲の捌け口にしていたと。

「嘘よ。あなたとそのセフレちゃんの間はそんな物じゃなかったわ」
「違う、僕はただ気持ちよくなりたかったから……」
「『君を心から愛している、上海の彼女とはもう別れたよ。』」
「?!」
「そんなにビックリする事ないじゃない。そんな事言っていなかったら」
「言ってない。何の事だか」
「しらを切れるなら切りなさい、今の内に。もうすぐ麻酔が切れるから。白状したら、楽にしてあげる」

 確かに、僕の股間には感覚が生まれつつあった、縄に触れている触覚と、全体重が掛かって痛む痛覚が。闇夜の様にじわじわと広がる痛みは、徐々に耐え難いものになっていった。
「もっと酷いことになるわよ。想像を絶するわ。二度と勃ち上がれないかもね」
 痛みは腹膜にまで来た僕は限界に達し、彼女にギブアップを伝えた。彼女はどこからか取り出した注射を亀頭に刺し、僕の痛みは即座に引いた。僕は涙を落としながら本当の事を話した。

 僕が大学の同級生のFに再会したのは彼女が発ってすぐ、お互い元々仲が良く、久々の再会にときめいてホテルに入った。Fは彼女よりずっとセックスが上手で、僕を夢中にさせてくれた。僕は本気でFを好きになり、再会して僅か6ヶ月で結婚をした。彼女に知られるのを恐れた僕は式を挙げずにFの夫になり、周囲にもその事を話しはしなかった。その二ヵ月後に彼女が帰ってくると知り、僕はかなり大胆な浮気をする決意をした。どちらも愛していたからだ。
 全てを告白した僕は彼女の方を向き、拘束を解くように頼んだ。しかし、彼女は僕の方を向いていなかった。彼女の目線を追うと、その先には中国人が居た。
「段! 私を迎えに来てくれたのね、嬉しいわ」

 彼女は段とか言う男に抱きつくと、こちらを振り返り「それじゃあね。あなたはFとやらと楽しく暮らしなさい」と言葉を残し、闇の中に消えていった。

 電球の光が区切る場所には、依然恥ずかしい格好の自分がゆらゆらとしていた。
 僕は彼女の名前を大きく叫び、悔し紛れに体を大きく揺らした。刹那籐椅子が大きな音を立てて二つに割れ、僕は再び奈落の底に落ちていった。

 気が付くと、僕はびっしょりと汗をかいてベッドに横たわっていた。どうやら彼女とのセックスを終えて一眠りしていた様で、全て夢だった。
 僕は大きく安堵した。彼女にはまだ、自分が既に結婚している事はバレていない、その歓びで一杯だった。

 しかし、隣に眠る彼女の安らかな顔を見て、一瞬鳥肌が立った。次の瞬間自分の頭の中は、どうやって別れるかをイメージしていた。
 気のせいかちょっと長くなったペニスをぶらつかせてシャワーを浴び、何の困難も無くすんなりと開くガラス戸に感謝して、彼女を起こし、彼女の準備が整うのをベッドに腰掛けて待ち、部屋の中の自動清算機に金を入れ、二人は廊下に出た。
 その瞬間、不思議な光景が目に飛び込んできた。僕の妻であるFと中国人の段が手をつないで向かいの部屋から出てきた。四人は目をそれぞれ合わせると、全員放心状態に陥った。
 その後それぞれの立場を話し合い、決着をつけた。
 一年後にはとんだ笑い話になっているさ、段の一言で解散すると、二組はそれぞれまた別の部屋に入った。

 今度は腹を割って話しながら、ゆっくりとセックスをした。二ヵ月後、僕とKは離婚していて、新たな二組の夫婦が誕生することになった。
(メールによる体験告白より 2011年5月11日)

 
 「今回は、前の二つよりずっと夢っぽい夢でした。また、ハッピーエンドです。長くなりましたが、掲載お願いします」という本人コメントですが、う〜む、すごい。夢をこんなにはっきり覚えていられるのも凄いが、夢を創作で補っていたとしても、やはり凄い。体験告白のコーナーに載せるのはもったいないよね。冬二等兵専門のコーナーでも作ろうかなあ。

 
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