余韻    10

 

◆忘れる(わす・れる)

 汀がもう一度部屋を見渡し、玄関に舞い戻ってきた。
 ワタシは彼と手を繋いでドアを開く。
 安い引越し便を使ったので、荷物は二日遅れでコンテナが届くはず。トラックのクラクションが響いたかと思うと、再び、静けさに包まれた。

「ねぇ……近くのコンビニで買い物でもしていく?」
「うん。あのホテル、泊まりだけだったもんな」
「ヘンなこと……しちゃダメよ……ふふ……」
「え? ヘンなことって……もう……」
 ワタシたちは当たり前のように、そっと鼻先をくっつけあった。
 ポケットでは何度も携帯電話が震えている。

 ワタシに触れるアナタが幸せであるように。
 ワタシを愛するアナタが幸せであるように。

 所々、れてしまった甘い夢を懐かしんだ。

 

 

 

 

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