机とノート

 

 

 妄想もここまで来ると、自分でも呆れてしまう。

 ことの始まりは何だったろう? そう、ノーブラのカッコ良さに憧れて、悪戯半分にノートに綴ってみたことだ。
 なんて、はしたない。
 そう思った。
 これじゃ、まるで変態だわ。
 熱くなっていた自分が恥ずかしくなり、すーっと冷えてゆく。
 慌ててノーブラの記述をしたためたページを破ろうとするあたし。けれど、ビリっという音とともにページの中央が上部から1センチほど千切れた時、あたしのその手は止まった。
 あたしはページを破り捨てるという作業をしながら、自ら書いた妄想を読み返していた。そして、性器が妙に熱く、そして潤っていることに気がついたのだ。
 その途端、恥ずかしい文章で埋められたその紙片を破棄するのがとても惜しくなった。

 あたしの妄想は進み、Tバックやノーブラ、ミニスカ、ピアス……と、どんどん書き進められていった。そして、その後を追うように、リアルのあたしがそれを実行していくことになったのだった。

 書いている途中でイメージが湧かなくなり、現実が先行してしまったこともある。上司や同僚との出来事などがそうだった。
 自分がそのときどう感じてどう行動をとるか、についてはある程度想像が出来たし、適当に書くこともあった。けれど、他人の登場に際してはどうしてもそれが出来なかった。
 妄想ノートを書くために男の人をその気にさせる、というのはいかにも馬鹿げていると思ったけれど、やってみると意外と楽しい。

 いつの頃からかノートには、頭の中で作り上げた妄想と実際に経験した現実とが入り混じっていった。このふたつがうまくマッチングしなくて矛盾も出たけれど、所詮は自分の手元で楽しむだけのノートだ。かろうじて辻褄を合わせながら書き進めた。

 妄想と同じ状態に自分が導かれると愉快だった。経験を振り返りながら言葉を綴ってゆくのも心が浮かれた。

 困ったのはクスリだ。
 服用してセックスをすれば絶大な快感をもたらす。知識としてそれは知っていた。けれど、身体が蝕まれるのは困るし、そもそも簡単に手に入るとも思えなかった。
 だけど。
 妄想ノートのような創作麻薬は確かに手に入るわけなどなかったけれど、実際に取締りの対象となっているものならばたやすく手に入ってしまった。
 ノートを書き綴るために上司や同僚を誘惑したように、クスリも取材程度の気持ちで手を出した。
 そして、やめられなくなってしまった。

 妄想と現実というふたつの事象を組み合わせて書き連ねてきたノートには、いつしか幻覚が加わるようになった。
 ノートに文字を書いている、という行為さえ、あたしには現実なのか幻覚なのか区別がもうつかない。
 これ以上書き進めることはおそらくもう不可能だろう。
 誰か、あたしが朽ちてゆく姿を最後まで見てくれてはいないかしら。そして、願わくば、あたしのノートの続きを、あたしの振りをして、完成させてくれれば……、

 

もどろっか

それとも、先に進む?