「キオト」
■INTERVAL-5-

 ふわふわと。
 その感覚はなんだか夢によく似ていた。

 康之と、何度も交わしたキスの名残り。
 ヒリヒリと……まだ唇が火照っている。真空パックのように、ぴったりと密着したあの感触。あぁ……なんだか、夢みてるみたいに心地良くって。繰り返すキスの最中、うっとり眠りに落ちるように。

 心。
 この心がある限り、私は寂しいなんて思わない。
 多分。

 カラダの熱はいつか冷める。ただ心……この心の熱は止められない。そして火鉢の中の炭火のように、いつまでもいつまでも……私を焦がし続けるこの焔は絶える事がない。
 多分。

 心。
 この心がある限り、私は康之と一緒に"永遠"に近づけると思えた。有り得ない事なのに啓示の様に浮かぶ確信。

 私と康之は、砂浜からバイクのある道路へとひきかえす。強い風の中に潮が混じっていて、流れる髪の毛を指でほどいた。
 振りかえると、明け方の海が朝を迎える空の様を写し続けている。

 コマ落としのグラデーション。
 人がいようといまいと、時間が過ぎ去っていく景色。きっと、毎日毎日、同じ繰り返しのはずなのに。
 きれいな時間だと、改めて思った。私たちが溶け合うように。海もまた、この空に焦がれているに違いないのだから。

 康之がバイクのエンジンをしばらくふかしている。少し高めの音。バイクなんてどれも同じに見える私だけど、康之がうちに来るこの音だけは知っている。
 康之がフルフェイスのヘルメットをかぶり、後ろのタンデムシートにまたがった私の膝をポンと叩く。
「寝ちゃダメだぞ」
「大丈夫ッ!」
「ほんと、お前、危なっかしいからなぁ」
「大丈夫だってッ!」
「ちゃんと掴まっとけよ」
 私は、答えるかわりに康之のお腹に両腕を絡みつけた。

 わかってるわよ。もう、頼まれたって離れてあげないから。

 田舎の国道は私たちのためにある。合間に見える信号機で「シグナル・レース」を繰り返す。

 私は満たされていた。この背中が、私を守ってくれている。この人は逃げたりなんかしない。だから、安心してこの体を預けてみようと、康之にしがみついていた。

 何度目かのシグナルレース。
 競争相手がいないと思って油断していたのかもしれない。高揚する気分に任せて。どのくらいスピードを出してたかなんて判らなかった。
 いきなり現れたまばゆい光。それから否応なしに、背中を押さえこまれるような錯覚。声をあげる間なんて……なかったのに……

 

モクジニモドル//ススム