フライデーナイトアベニュー
4月の最初の金曜日 その(2)






 「お金があったら、こんなところでこんな男と一緒にいたりはしない。きちんとしたホテルに泊まる。そうじゃないのかい?」
 「家出。まじめに学校に通うのが馬鹿馬鹿しくなった。都会に出てきて遊んで何日か過ごして帰るつもりなのか、いずれ生活の基盤を作って根を生やすつもりなのかは知らないけれどね」
 「フライデーナイトアベニュー。そんなものの存在をどうして知ったんだい? いったい誰が地図まで書いてきみに渡したんだ」
 「セックスがしたいんなら、きちんと恋人を作れよ。こんなところで男をあさってたって仕方ないぜ」
 「捜索願が出ているかもしれない。ふらふらしてたら、補導員につかまるかもしれない。それで人生不意にすることはないにしても、賢いとはいえないな」


 バスルームの扉を開けたままで俺はシャワーを浴びた。
 その間、俺はずっとしゃべりつづけていた。ホテルに入り、冷蔵庫の缶コーヒーを一気飲みしてのどの渇きを癒すと、ねっとりとしたものが俺の身体を包んでいることに気がついた。
 だから、「お先」と一言残し、先にシャワーを浴びることにした。
 バスルームに入ると、笑い声や叫び声が聞こえたので、いったん閉めた扉を開けた。アヤコがテレビのスイッチを入れたのだった。バラエティー番組だった。アヤコは無表情だった。
 扉を開け放っておけば俺もテレビ画面を見ることが出来る。そのまま扉を閉めずにシャワーを浴び、気分が良くなると途端に俺は雄弁になった。


 「さっきから何を言ってたの? シャワーとテレビの音で、何も聞こえなかった」と、アヤコは言った。
 「いいんだ、聴こえなくて。君の知らないような古い歌謡曲を口づさんでいただけだ」
 「ふうん」
 アヤコはそれ以上興味を示さなかった。
 「わたしもシャワーを浴びる。ううん、お湯を張ってお風呂に入りたいな。待っててくれる?」
 「俺は何も急がない。ゆっくり入ってくればいい」
 そう、俺は何も急いでいなかった。家に帰っても、もう妻も子もいない。明日の朝まで、俺の時間は全て俺のものだ。一人であることの開放感が俺を包んだ。空虚だった俺の心が満たされつつあった。
 失ったものを嘆いてもしょうがない。失ったことが寂しいのなら、俺はどうして今まで新しいものを求めようとしなかったんだろう?
   「大きくしておいてあげる」
 アヤコはそう言って、いきなりフェラチオをした。
 しばらく唇や舌をもごもごさせて、俺のものを大きくすると、すぐに口を離した。
 「その気になった? いまさら逃げられても、わたし困るから」
 「ここまで来て逃げないさ。どうせ逃げるんなら、君を抱いてからだ」
 「ホテル代だけ払ってくれたら、逃げてもいいけど…。わたし、お金もあんまり持っていないし、泊まるところもないから」
 「ああ。わかってる。きみこそ俺が眠っている間に財布を持ってトンズラなんかしないでくれ」
 「ばかにしないで。わたしはフライデーナイトアベニューに来たのよ」
 アヤコはチャンネルを「アダルト」に変えて、「これでも見てたら?」と言い残し、バスルームに行った。


 幸い彼女はバスルームの扉を閉めた。ホテルによっては、あるいは部屋によっては、バスの壁がガラス張りで中が透けて見えるところがあるが、このホテルはそうではない。
 俺は彼女の荷物を調べた。安物のデイパックひとつ。大きな荷物はコインロッカーにでも預けてあるのかもしれない。
 スカートのポケットに手を入れると財布があり、免許証がでてきた。原付免許。年齢は17歳。学生証でもないかと思ったが、それはない。現金は7万5千円ほど。結構持っている。
 だが、サラリーマンの日常と比較することは出来ない。これでいったい何日過ごすつもりなのだろうか? それによって、この金額が十分なのかこころもとないのか、判断は異なる。
 ただホテルに1泊するだけなら充分な金額だ。豪華に散在できるだろう。しかし、いつ帰るとも知れない家出や放浪なら、心もとない金額に違いない。


 セックスだけが繰り返され、たまに無意味なそれ以外のシーンが何のコンセプトもなく登場するアダルトチャンネルは、今の俺の気分にそぐわなかった。チャンネルを変えると何かの舞台をやっていた。ミュージカルのようだが、オリジナルだろう。俺の頭の中にインプットされている著名な作品のどれとも違うようだ。
 ぼんやりと眺めているうちうたた寝してしまった。
 「ねえ、疲れているの?」
 耳元でアヤコの声がした。
 「いや、退屈してただけだ」
 「ごめんね。でも、とっても気持ちよかったわ」
 薄化粧をしていたのだろう、そして、風呂で温まったせいもあろう。アヤコの頬はうっすらとピンク色に染まっていた。第一印象よりもさらにあどけなく見えた。
 免許証の17歳と言うのすら嘘に思える。裸になり、風呂で汚れを落とすと、本当の姿が見えてくる。
 だとすれば、男同士のいわゆる「裸の付き合い」とは危険なものだ。腹の探り合いがあたりまえの取引先の営業マンとは、決して温泉旅行をするべきではないな。
 「もう、すっかりしぼんじゃって」
 アヤコは俺の欲棒をつかんだ。
 「したくないの?」
 「したくないわけじゃない。だが、しなくっても構わない。君は俺が泊まり代さえ払えばそれでいいんだろう? だったらしなくても構わない」
 「ねえ、アナタ、何か勘違いしていない?」
 「そうか?」
 「きっとそうよ」
 「どうでもいいことだ。俺は君を抱く。その代償に、一夜のホテルを提供する。もしかしたら幾ばくかのお小遣いも渡すかもしれない。それでいいんだろう?」
 「ほら、やっぱり間違っている。ねえ、わたしのことをどんな風に思ったの?」
 「家出少女」
 「ふうん、家出少女か。ま、瞬間的に見ればそうかもしれないわね。いつのまにか新学期が始まって、なんとなく学校へ通うようになる。それがちょっとつまらないなと思ったりするもの。けれど、いずれ帰るから、家出じゃないわ。旅行よ」
 「似たようなものさ。家を出てふらふらと遊んで、その資金稼ぎと寝床の確保のために援助交際する。いずれ家に帰るかどうかなんて問題じゃない。援助交際をしているただの家出少女だよ」
 「ほうら、やっぱり勘違いしている。わたしはお金が目的なんかじゃないし、ふらふら遊びたいわけでもないの。ただ、男と寝たいだけ」
 「アヤコなら彼ぐらいいるだろう? たぶん年齢も近いはずだ。君達の年頃の男なんて、やりたくてやりたくてしょうがない。男と寝たければ毎晩でも抱いてもらえばいいじゃないか」
 「わかってないのね」
 「何がわかってないんだよ」
 「わたし達はフライデーナイトアベニューで出会ったのよ。夢のような一夜を過ごすために、やっと探してきたのに」

 「あなたぐらい大人になってしまったら、もうわからなくなってしまうのかなあ? それとも、女を抱く機会なんていくらでもあるから?」
 「何を言ってるんだよ」
 「アバンチュール、その場限りの恋。恋愛感情とか、そういうのを抜きにして、何のしがらみもなく、ただ思い切りエッチなことにふける。そういう割り切った関係って、大人の人にはわからないんだわ」
 俺はこの娘が何を言い出そうとしているのか感じて、ゾッとした。まるで何年も社会でもまれて疲れ果てた中年のような台詞だと感じたからだ。
 「彼じゃだめなのかい?」
 「恋人よ。付き合っているのよ。学校でも顔を合わすし、進学の悩みも相談しあうし、一緒にハンバーガーも食べるのよ。そんな相手とただ快感をむさぼりあうなんてこと出来ないでしょう?」
 「なるほど」と、俺は言った。
 そういう相手とも臆面もなく猥雑なセックスができるのは確かに大人の特権だろう。そうしておいて何事もなかったような顔で仕事の打ち合わせが出来るのも大人ならではの卑怯さかもしれない。
 「猥雑なセックスの、どこがいいんだよ。恥じらいのあるセックスのほうがいいかもしれない」
 「だから、なにもかも忘れたいの。現実がついて回ると、あまり気持ちよくなれないもの」
 またアヤコは人生に疲れた中年のようなことを言う。
 「ねえ、もういいじゃない。しようよ」
 「ああ」
 俺はすっかり目が覚めていた。そして、俺の欲棒もアヤコの手によってうずかされていた。


 俺はアヤコの背中に手を添えて押した。アヤコは俺が何を欲しているのか察知して、俺の手の動きに従い上半身を起こした。
 ラブホテルの軽い寝具が一瞬アヤコの胸にひっかかり、しかしすぐにお腹のあたりまで落ちた。アヤコは身体をひねって仰向けに寝そべっている俺のほうを見る。あらわになったアヤコの胸が俺の視界に入った。
 真っ白な乳房。顔や首よりもさらに白い。人前にさらされたことなど一度もないような純白。そして、ピンク色の乳首。だが、アヤコは処女ではないのだ。

 17歳といえば、個人差の大きな年頃だろう。男達によってとっくに女の喜びを叩き込まれて熟れてしまった子もいるだろうし、まだそういうところには全く差し掛かっていない少女もいるだろう。だが、アヤコはそのどちらでもない。
 小ぶりの乳房が妖艶さを放つまでにはまだ時間がかかりそうに思えるほど、形の乱れたところが全くない。その膨らみは理想的な形にとがっている。だが、女として熟していないからではない。若くて弾力のある肉体が彼女の体型をピンと張り詰めたものにしているのだ。それが証拠にアヤコは処女ではなく、激しく猥雑なセックスを望んでいる。
 とろけるような優しい愛撫からも、欲望のままに蹂躙されることからも、性の快感を得ることが出来るにまで成長しているのだ。
 腰のくびれや、後ろから見た尻の丸みも、見事なぐらい形が整っていた。少女と言う名の女に俺は幻惑されつつあった。触れた瞬間に全てが壊れてしまいそうなほどのあやうく儚げなものと、蹂躙しようとするものを凛と跳ね返すパワーを同時に感じさせ、かつ、その実態はそれらを待ち焦がれているのだ。
 アヤコのような肉体にはそうそうお目にかかれない。その身体は少女でなくてはならいが、同時に男の味も知っていなくてはいけない。女の生の中の、ほんの一瞬の輝きだ。しかも、全ての女に与えられる輝きではない。まず、美しいこと。そして、そのわずかな瞬間にセックスを謳歌する機会があること。
 熟れた女が熟れたセックスをすることはいくらでもあるだろう。しかし、アヤコのように、輝く瞬間に男に抱かれることがあるかどうかは、運やタイミングが大きく左右するはずだ。
 逆にこの状態にならずして肉体の悦楽を覚え、輝かないままに「男にもてあそばれた体」へと変貌を遂げてしまう女もいるだろう。
 そう思うと、アヤコとのめぐり合いは奇跡に思えた。アヤコの肉体は神々しくさえあった。


 俺は上体を起こした。女の乳などこれまでさんざん吸ってきたというのに、アヤコの乳首は特別だった。吸い付いて舌で転がし、そして乳房に顔をうずめたい衝動に駆られた。
 俺が行動を起こすと、アヤコはしっとりと微笑んだ。瞳の奥がわずかに妖しく揺れた。
 「やっとその気になってくれたの? 来て」
 頭の芯にアヤコの声が届くようだ。
 少女の身体のその中に、秘められた女が見え隠れする。
 そう思った次の瞬間、アヤコは再びどちらかと言えば幼い17歳に逆戻りした。
 俺の欲望はぐんぐん登りつめていた。アヤコは激しいセックスを求めている。アヤコの肉体には生の快楽が息づいている。何の遠慮も要らない。
 俺はアヤコの肩を両手でつかんで30度ほど俺のほうに向け、自分はアヤコの前に乗り出して身体をひねるようにした。目の前に綺麗な乳房。
 俺は唇を寄せた。一瞬、まだキスも交わしていないのにと思ったが、すぐにどうでも良くなった。アヤコは、心と身体の命ずるままに求めてもいい女なのだ。
 チラとアヤコを見上げると、何もかも許した相手にだけ見せる安堵の笑顔をしていた。あと半歩で恍惚の入り口に差し掛かる、セックスの最初のあの独特の表情。
 俺は乳首を唇ではさみ、強さに緩急をつけながら舌先で愛撫した。徐々に唇を開いて吸い付く範囲を増やしながら、乳輪よりも少し外側も含めて唇で搾り取るようになぞりあげる。
 あ、ん。
 小さく漏れる声。アヤコはまだ特別な状態にはなっていない。やんわりと全体的に甘美な感覚に包まれているだけのようだ。
 この女がやがて足を開き、腰を振るようになる。そんなに時間はかからないはずだ。
 乳房が柔らかくほぐれ、乳首が硬く立っているのがあきらかにわかるようになったので、俺はもう片方の乳房も手で揉むことにする。背中から回した手をわきの下をくぐらせて向こう側の乳房に触れ、先端とふくらみをまとめて鷲づかみにする。まだ刺激を受けていないほうの胸だが十分に感じており、乱暴に握るとアヤコはトーンの高い声をはじけさせた。
 口で吸いながら、手でこねくり回す。
 あ、はあ、はん、あん、はあ。
 俺の動きに呼応してアヤコは小刻みに身体を律動させた。性の快楽を知っている女の反応だった。
 もはや蜜壷も濡れやわらかく開いていることは間違いない。いつもの俺なら指を挿入してぐるぐると回し、より反応の強いところを探り始めるのだが、胸だけでアヤコがどこまで昇ることが出来るのか俺は試したくなった。
 それに、両方の胸と蜜壷を同時に攻めれば、あっというまにアヤコをイカせてしまう恐れもあった。いつ辿り着くとも知れない高みまで既に押し上げられた女ならともかく、アヤコの絶頂点がそれほど遠くにあるとは思えない。
 セックスの悦びは知っているにしても、それは「アヤコなりに」知っているということだ。大人の女には程遠いはずだ。なぜなら、さらなる深みがあることをアヤコも本能的に感じているからこそ、そこに達したいと「激しくして」と注文をつけたのである。まだ呼び覚まされていない多くの快感がアヤコの身体の中には眠っている。そのことは本人が一番よく知っている。
 さらに付け加えるなら、一切の身体のラインを崩さずに、そこには到達できないということである。アヤコの美しさは、過程の途中ならではの綺麗さなのだ。


 アヤコの蜜壷はどんな風になっているのだろう。
 いきり立った欲棒にかき回されて突き崩され、もしかしたら無残に開いているかもしれない。悦びの汁を溢れさせているかもしれない。アヤコの彼がどんな男かは知らないが、同年代の男なら力任せに突いて突いて突きまくっているだろう。ムードだけのセックスではなく、性器の擦れ合いによる身体の快感はアヤコも知っているはずだ。ならば生まれたままのヴァギナではいられない。
 見たい。
 だが、俺は我慢した。もっともっとアヤコを味わい尽くしてからだ。
 イク寸前で焦らせながら、今のアヤコのイク状態よりもさらに深い快感を与え、狂おしいまでにもだえさせてみたい。アヤコの身体のラインを乱れたセックスで崩すのは俺だ。
 俺はいったんアヤコから離れた。
 アヤコは俺の責めが一段落したと判断したのだろう。大きな深呼吸をした。声帯に息が変な具合に触れたのか、悩ましい音色となって部屋に響く。
 深呼吸の後もアヤコの息は整わず、ハアハアいっている。まだ俺はそこまで激しくしたつもりはなかった。アヤコなどただされるがままに胸をいじられていたに過ぎない。どうしてここまで息が乱れるのだ?
 その答えはすぐにわかった。俺がアヤコから離れても、彼女の身体は振動していた。俺は布団をめくった。アヤコは自分の蜜壷に指を突っ込んで腰を振っていたのだ。
 「あ、見ないで、あん、恥ずかしい」
 どうやら俺にはばれないと思っていたらしい。だが、恥ずかしいと言いながらも、いったん見られるとどうでもよくなるものだ。羞恥心が快感を増大させ歯止めが利かなくなる。アヤコはそれまで以上に指と腰の動きを早く大きくさせた。
 「なにやってるの?」
 俺は耳に唇を這わせながら訊いた。
 「だって、ああ、いやあ、気持ちいいから」
 「いつもそんなことしてるの?」
 「ああ、ああ、いやあ、訊かないで、そんなこと、ああんんん」
 「してるんだろう?」
 「だって、気持ちいいもん」
 俺は「だめだよ、一人で楽しんじゃ」と囁いて、そっとアヤコの手を取った。指先はべっとりと濡れていた。丸見えになることを意識したのか、アヤコはゆっくりと足を閉じる。だが、俺は見た。アヤコのヴァギナを。
 どこもかしこもあどけないアヤコだが、蜜壷だけはパックリと開いていた。俺はすぐに合点がいった。挿入して腰を振る。アヤコの彼が同級生なら、そのことだけに執着しても仕方ないと思う。全身をじっくり味わい、感度を引き出すことをアヤコの彼は行っていはおらず、けれど、蜜壷だけは十分に熟れさせられていたのだ。
 俺はアヤコにゆっくりと唇を重ね、そのままベッドの横たわらせた。
 俺達の初めてのキスで、むさぼりあうように舌を絡め合い、お互いを吸い尽くした。

   

 


4月の最初の金曜日 その(3)

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