Boy Meets Girl
「side TACT」

11.光
 
 空港に入る手前で僕たちは足止めを食らった。ピカピカのゲート目前で背中に刺さる男たちの声。
「その手を離してください。今なら全てなかった事にできますから」
 それは抑揚がなく、どこまでも事務的だ。本当は僕が逃げようとどうしようと構わないのだ。ただ一手間、処理が増えるというだけで。

「じゃぁ、キリエと一緒にレプリカに帰らせてほしい」
 僕は軍隊のような身なりをした、彼らに向かって叫ぶ。
「何度申し上げればご理解頂けるのでしょう? あなたは"ヴィジター"、レプリカのお客様です。この星のことには、一切関知できないのです。滞在期間が終了すれば"ヴィジター"ではなく、もはや"違法侵入"の民間人でしかありませんよ」
 淡々と僕を説得するのは、この星で初めて会話をした"入管手続き"を行った係員だった。

「まぁ、彼女はプロですから、よほど忘れがたい"夜伽"があったのでしょうが……」
 確かめるまでもない。彼はキリエを蔑む言葉を発した。僕と彼女の"交歓"を誰が"査定"できるというのだ? 何の権利があって"値踏み"できるというのだ?

「僕もキリエも同じ人間。せめて自由にプラネットを行き来したっておかしくないじゃないかっ!」
 殴りかかりたい衝動を抑えるのが精一杯だった。
「いいえ。あなたと彼女では決定的に違います。あなたは人類が繁栄するための遺伝子伝達の器となりえますが、彼女の遺伝子は伝達する価値がありません」

「価値だって? 何をバカなことを……」
「もちろん、私が決めた事ではありません。レプリカが誕生した時から"R計画"は何よりの最優先事項でしたから」
 係員たちは顔色一つ変えないで、僕らを包囲したままだった。
「くっ……そんな屁理屈が聞きたいんじゃないっ! 僕は……僕は彼女と一緒じゃないと帰らないっ!!」
   キリエは今にも、泣き出しそうな顔で僕を見ている。

 僕は隣の彼女にやんわりと告げた。
「大丈夫。僕たちは同じ人間。誰がふるいにかけることができる? おかしいだろ?」
 キリエが僕の腕にぎゅっとしがみつく。

「仕方ありません……」
 係員たちはスコープを顔に付け、旧式な銃を構えて見せた。
「トップでご卒業された、あの"R計画"立案のC教授のご子息ですが……規則は規則です」
 ジャキ……ジャキ……あちこちで鈍い金属の音が響く……
「父は関係ない。僕は僕だ。僕は僕の意志で生きる」
 キリエを突き飛ばして、僕は銃口に歩み寄る。ゆっくりと一歩……一歩……煌めく鉄の筒に向かって。

 ふと、漏れ聞こえた、ため息と呟き。
「残念です……a-men……」

 豪奢な破裂音を浴びた。真夏の花火のように耳をつんざいて。



 キャアァーーーーーーーーーーーーー!!!!!!



 全身がしびれる……僕は……どうやら転んだ……ラシイ……この目に真っ青な空が落ちてきそう……

 かぁさん……かぁさん? どうして? ここへ?
 あ……生きてた……ンだ……ね? ほんとうは……ぼく……いい子いい子って……してもらいたかったんだよ……
 僕は抱きかかえてくれたその人に、可能な限りの微笑を向けた。



 天使が舞い踊る夢をみた。



 初めて生まれたように、僕の瞳にはまばゆすぎた。
 この世における全ての祝福を受けるように。

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