学校にやってきた憧れの母親  by 新米高校教師

 

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 私も教師です。授業は集中して行いました。しかし午後にもなると、生唾が出てくるような興奮に見舞われたのです。

 放課後の、あと三組残っている三社面談。私もまだ新米とはいえ、希望と理想を持った教師です。親御さんの話を真摯に聞き入り返答しました。ただ、生唾がどんどん口の中にあふれて、つい、教室の廊下側の窓を伺ってしまうのです。

 もう廊下には、原雅子、そして母親の日出子さんが待っているのではないか……。

 二組目の三社面談。
「先生、何とか推薦を受けられないものかしら? この子は、クラブを頑張っていますでしょお」
「はい、お母さん。しかし、まだ2年生ですから、急がなくても……」
「あら先生、大学受験は早いうちに考えておかないといけませんわっ。ですから推薦のほうを……」
「はあ……」

「では先生よろしくお願いいたします。推薦……」
「え? ええ……」
 ガラ……ぴしゃ……。

 粘りに粘った、肥満気味の母親が教室を出て行かれ、そして……ドアのすりガラスに人影が映りました。生唾を飲み込みました。
 来た!

 ガラ……。
「先生……」
 雅子が、はにかんだ顔で入ってきました。
「先生、お願いします」
 雅子一人だったのです。

 まさか、あの家庭訪問のせいで、来れなくなったのか? 私のせいで……。
 それとも、校長室にでも行っていて、あの時のことを……そんな……。

「あの、お母さんはトイレに行ってるんです。さっきから2回も……」
「トイレ?」
「はい……気分が悪いって言って……」

 私をさっきからじっと見ている雅子。私はハッとして、「そうか。じゃあ原は、先にここに座っていてくれるかい?」
 前の席に手を伸ばしました。

 今日は、変な所を察知されてはいけない。何しろ私は、この子の母親と……家庭訪問で……。
 私の右前に座った雅子。机二つ分の至近距離です。左前には、日出子さんが座るのです。変な所を見せてはいけない。私は教師なんです。

「遅いね」
 私は立ち上がって、廊下をのぞこうと、雅子の横を通ってドアに向かいました。そして……。
 ガラッ……。
 そのドアが開いたのです。

 よく立ち上がって、歩いたものだ。心底そう思いました。もし雅子の前に座ったままだったら……。雅子は私の、生唾を何度も飲み込んでいる呆然とした顔を見てどう思ったでしょうか?

「美しい……」
 思わずそうつぶやきそうになりました。教室の入り口に立つ女性、日出子さん。地味で控えめなな服装だ。

 面談で見てきた母親たちは、派手で緑や赤のケバケバしい格好の方たちばかりだった。それに比べて日出子さんは、クリーム色のスカートに水色のブラウス。しかし、日出子さんの華やかな顔が、その地味さにぴったりとバランスしているのです。

「ご無沙汰しています、先生。本日はよろしくお願いいたします」
 形のいいぷっくり唇を微笑まして、日出子さんがこちらに歩いてきました。

 たぷん・たぷん……。
 歩くたびに、ブラウスの大きな膨らみが弾んでいます。豊満さ故に、ブラジャーのラインがブラウスに浮き出ている。……ムチムチだ……

「先生、家庭訪問以来ですね」
 日出子さんの胸ばかりに釘付けになっていた私をからかうように、日出子さんは赤い舌をチロッとのぞかせて、上唇を舐めました。私はドキッと我に帰りました。
 いけない、私は教師なんだ。

「ど、どうぞ、お掛け下さい、原さん」
「はい、先生」

 雅子の横に腰掛けようと前屈みになった日出子さんの、真っ白な胸の谷間が一瞬見えたとき、私は目をそらしていました。

 

 

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