魔性の女と(2)  by ケンチ その2





 




しかし、これは序の口だった。
 彼女は母親の体調が悪くなったので、1年後の定年を待たずに退職して看護にあたることになった。
 その母親が3年後に亡くなった。悲しみと虚脱感、孤独感が襲った。そして、無性に男が欲しくなって、私を思い出したらしい。もう彼女には職場の醜聞を気にすることも、それによって退職に追い込まれる恐れも、退職金と年金によって、経済的な不安もない。
 今までの忍従の生活から、一気に自由奔放の世界が広がった。

 一時の悲しみは、喜びに変わり、残り少ない人生を思い切り楽しもうと決意した。
 そこで、新たに男を見つけるよりも、これまでの男性遍歴で、一番御しやすい私が選ばれたわけである。

 そんなことを全然知らなかった私は、妻が性交痛で拒否するようになり、彼女のことを思い出しては、悔やんでいた。あんなことを言ってしまって、今さら許してもらえないと、電話もできなかった。
 そんなある日、偶然にも帰宅途中で彼女に出会った。同じ沿線なので、それまでにも出会う可能性があったにもかかわらず、一度も出会わなかった。二人共びっくりした。

 まず、私はこの前の失礼を詫びた。そして、お茶でも飲みましょうと喫茶店に入り、そこで、早期退職して母親の看病をしたことや、その母親が3月前に亡くなったことを聞いた。話しながら彼女が求めているように感じたので、夕食に誘い、店を出ると自然にホテルへ向かった。
 久しぶりで、お互い飢えたように激しく体を貪り合った。

 彼女は、よがり声を上げ、すすり泣き、狂喜乱舞した。終わってから、最近は妻とセックスレスだと打明けると、目を輝かせて、再会を約束させた。
 それからは、私が誘えばいつでも喜んで応じてくれたので嬉しかった。
 長年、妻の貧弱な体に馴れて飽いてしまった私にとって、豊満で性欲旺盛で感じやすい体は魅力的だった。

 彼女はこの前のことを、あれは一時的で、今は元通りになってくれて嬉しい。そして「あんたとは一番合う」と殺し文句を言った。会えば激しく求めてきて、私はとりこになった。
「少し弱くなったようやね」と不満そうに言うが、自分の性欲が強くなったのである。
 大きな重い尻を軽々と浮かせて自由自在に操り、私のモノに食いついて満足するまで離さない。完全に彼女主導である。その後に付き合った男の悪影響が出ているようだ。

 そのことについて尋ねると、あの男は自信家で威張っており、すぐ嫌になった。
「やっぱり、あんたが一番ええわ」とおだてて、「セックスは気持ちの問題で、絶倫はいらん」と言いながら「私は、もっとしたいけど、あんたの気持を尊重して辛抱してんのよ」とも言う。どちらも本心で、世の中に完璧はないということだろう。
 あれだけは、本能の赴くままで、お互いの好みや、相性もある。
 人間の快楽の最高のものであり、次元の違う極められない魔の魅力の世界である。

 彼女は私の家の近くにアパートを借りて、いつでも会えるようにしたい。と言い出し、乗っ取りを計りだしたので、それは困ると反対した。あの時、彼女は私と偶然出会ったのではなく、待ち伏せしていたのではないかと疑った。
 彼女が反対の理由を尋ねたので、夫婦のようにいつも一緒におると、それに慣れて飽いてくる。今のような状態が一番よいのである。

 半ば納得し、半ば妻への未練を疑っていたが、私の定年まではこの状態を続けようということで二人は妥結した。
 しかし、彼女は専有したい気持ちを抑えがたく、あなた方夫婦は名ばかりで、私たちの関係の方が真実であるから、実態通りにするのが本当ではないか、と度々迫った。
 それなら、実態が大事であるから、何も慌てることはない。私には、会社や世間体があるから今のままの状態で置いてほしい、と説得した。

 彼女は、母や弟妹のために人生を犠牲にして献身した。そのことについては私の務めであり、後悔していないが、失われた時間が惜しい。これを取戻したい。残る人生を思い切り生きたい。何人かの男と交際したが、結局あんたになった。運命だと思った。これだけは何があっても守りたい。毎日の幸せを遠くでなく、身近で実感したい。と熱心に私を説得した。

 それは、今、急に私がいなくなる恐怖に襲われているような執拗さだった。
 そして会えば、今までの分を取り返すつもりなのか、残された少ない余生を楽しむために一生懸命なのか知らないが激しかった。
 それとも、年上である自分が先に老けることに不安を感じていたのかもしれない。私には、離さないよう必死になっているように感じた。

 とうとう、妻に知れて喧嘩となり、離婚騒動に発展した。
 彼女は、何もいらないから身一つで来てくれたらよいと言うが、彼女が仕組んだ芝居ではないかと疑った。
 妻は強硬に離婚を主張したが、家と退職金全額を渡す。給料または年金の半額を、妻の年金支給まで払う。そのため、形式上はそのままにして置くということで三者合意して、実質は妻と離婚、彼女と結婚ということになった。

 彼女と同居して、やはり私の心配は当たった。もはや私が元に引き返せないと知ると、だんだん抑えつけにかかってきた。
 彼女の性欲は強く、私は、彼女の情欲を満たすロボットに成り下がった。
 彼女は、快楽を求めて、飽きることなく開発し続けた。気に入ると何度も試みて喜んだ。
「お金も何もいらないから身体だけ来たらよい」という意味が初めて分かった。

 そんな面白くない状態で、飲み会の後で皆とカラオケに行った時、バツ1女と出会った。「踊って」と誘われてダンスをすると、熱い体を寄せてきた。
 乳房が蕩けるようで、思わす耳元に「○○で待ってて」と囁いた。

 友だちから抜け出し、女とホテルへ行った。
 40前の女盛りの熟れた肉体は、喜び、喘ぎ、喚いた。
 終わってもしばらく私の胸に顔を埋めて、しばらく余韻に浸っていた。いくら彼女が濃厚な味付けをしても、旬の味には勝てない。肌と声の艶が違う。一度味わったら、もう彼女の肉体への魅力は薄れた。
 女は「あんたみたいに、とことんいかしてくれるのん初めてや」と感激してくれた。

 それから、再々その女と会ったが、すぐに彼女は嗅ぎつけた。激怒して私を放り出した。
 住むところを失って行き場のない私は、元妻を頼るしかなかった。
 妻は私がいなくなって、何かにつけて心細く、また、結果的には彼女から奪い返した形になり、文句を言いながらも迎えてくれた。しかし実質は、養子になったようなもので、立場が逆転して、飼い犬のような情けない存在に甘んじた。
 女の嫉妬と意地と執念の恐さを痛感した。

 バツ1女とは交際を再開することができて嬉しかった。時々会って楽しい時を過ごした。私は、それだけが楽しみで生きているようなものだった。
 妻は、自分が義務を果たせない負目から、黙認してくれているのだ、と私は思って、少し自信を取戻した。

 その後、そのバツ1女とは2年余り付き合っていたが結婚するので別れ、別の2、3の女性と交際したが、50前後の人ばかりで、もうあんなよい女には巡り会えなかったが、開発に協力して得たノウハウは役に立った。
 人にはそれぞれ好みの型や進行速度があるが、それに合わせることができた。相手の喜びはこちらにも伝わってくる。大きければ大きいほど、こちらも大きなものが得られる。皆(といっても数人だが)に喜んでもらえて、こちらも嬉しかった。

 振り返ってみると、一番はバツ1で、次が彼女である。
 彼女に鍛えられたので、バツ1を感激させることができたのだと思う。肝心の妻は、淡白で物足りなかった。

 結婚前の女性については、私の自己本位でオナニーのように印象が薄い。
 彼女は、私を追出して後悔したのではないかと思うと、おかしくもあり、哀れでもある。

 今の私はEDで使いものにならならず、老妻に邪魔者扱いにされ、昔の思い出を楽しんでいるだけである。
(メールによる体験告白より 2011年2月10日)

 
 そうですか。それもこれも、今となっては思い出なのですね。まあ、よろしければ、ここを読んで、若い方のセックスも、楽しみに加えて下さいませ。

 
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