キスから1 by 蓮芭 その1





 

 はじめまして、ハスバといいます。会社の人を好きになりました。
 でも結婚してる人で、左手の薬指に銀色のリング。だけど、胸が締め付けられて、ドキドキしたりして、我慢できなくて。

 私はまだ入社して間もなくて、PCでの作業を教えてもらっていました。
「そこのを開いて…」とか、「ここにそれぞれ入れていって…」とか。
 声も結構良くて、あ、やばいよ〜なんて内心思ってて…
 不意に、私の、マウスを操作する手に彼の手が触れました。私の操作があまりにとろくて、思わず手が出たって感じで。いっその事そのまま手を添えてくれたらいいのに! なんて思っていましたが、彼はすぐに手を引っ込めてしまいました。
 がくり、残念。

 でも…別の日に、別の作業で教えてもらっている時、彼の手がデスクの上に置かれていて、それが、マウスのすぐ横で。ほんの少しの沈黙の時に、思い切ってその手に触れてみました。
 心臓がドキドキして、顔が熱くなって。
 ちらりと自分の手を見たら、かすかに震えてて余計ドキドキしてしまいました。
 思えばそれが、きっかけです。

 ある日、事務所の横に簡易応接スペースがあるんですが、そこのマガジンラックを整理していると彼が入ってきました。
「あ、雑誌整理してるんだ」
「はい、ちょっとサボってたらたっちゃって」
 そんな会話をしていると、傍らのテーブルに置いた古い雑誌を彼は手に取り、ぱらぱらとめくりだしたんです。思いました。うわ、何気に密室に二人きりだよ! と。
 唐突にキスをしたくなり、私は振り返って、彼の正面に立ちました。
「ん?」
 不思議そうに、笑顔のままの彼。その彼の肩に手を伸ばして、背伸びして、唇に自分の唇を当てました。

 本当に、実はそれまで私は、一切のそういう経験をした事がなかったので、キスの経験もゼロで。触れ合わさるだけのキスでした。
 彼は驚いたように固まって、呆然としていました。
「え?」
 少し経って、思い出したかのように一言。
 簡易応接室なので外に声は漏れますし、他の同僚もいたので、私はそのままそこを出ました。長居は不自然ですからね。

 それからです。二人、偶然にも誰もいない場所で顔を合わせたら、唇を合わせるようになりました。けれど愛を囁きあうわけでもなく、ただ、無言で。
 触れるだけの、お子様のようなキス。
 その内にだんだんと、変わってきました。押し合わせるから、重ね合わせるになって。唇を舐めあうようなキスになって。
 だけど彼は、何も言いません。寂しく思いつつも、彼の唇の感触にむらむらしちゃって大変でした。

 そんな日が続いた、あくる日のことです。私はその日、午後からの役員会議のために、大会議室を一人で掃除しようとしていました。
「会議室拭いて来ます」
 彼にそう言って、雑巾を持って向かったのですが鍵を忘れて。自己嫌悪に陥っているところに彼がきました。
「蓮芭さん、鍵」
「あ、すみません、おっちょこちょいで」
 テレ笑いを浮かべる私に、彼も微笑み返してくれました。ついでに鍵も開けてくれて。で、会議室に入ると、後ろでカチャリと、音がしました。振り返ると、穏やかな微笑を浮かべた彼が、ドアを背に立っていました。

 このシチュエーションは美味しい! などと思っていた矢先に。
「あっ」
 気付いたら、彼の顔が目の前に。
 びっくりして後ずさろうとしたのですが、いつの間にか腰を抱かれていて。空いた手で、彼は私の首筋を静かになぞりました。
 自然に目を細めてしまう私…ドキドキと、心臓はなっていて。初めてのキスの時と同じように、そっと唇が触れました。
 このとき初めて、甘さを知りました。

 ちょっと離れて、すぐに唇が押し当てられて。
 そのまま、唇を舐めあうようなキスをして…ふいに、彼の舌が私の口の中に入ってきました。
「んっ」
 ディープキス、ですよね。
 そういうキスの事はしっていましたが、もちろん初めての事で。舌を絡め取られて、口内に舌が這って、背中がぞくぞくしました。呼吸するのも忘れるくらいの、甘く苦しいキス。お酒を呑んだ訳でもないのに、酔ってしまいそうで。
 身体もびりびりしてきて。

 フッと、彼の、私の腰を抱く腕に力がこもったな…と思ったら、唇から唇が離れてしまいました。
「ふぁ、ん…」
 苦しさのあまり、変な吐息が出てしまい少し恥ずかしかったです。

 でもすぐにぶっ飛びました。
 彼の舌が、首筋を這ったんです。
「あっ、つ…」
 気が狂いそうで、眩暈までしてきて。
 そのとき唐突に、彼は私を押し避けるかのように離れてしまいました。
「時間、まずい」
 彼のその一言で、我に返りました。会社だよっ(笑)

 壁にかかっている時計を見ると、もうすぐお昼休みでした。彼は、一度、ポンッと私の頭に手を当ててから、会議室を出て行ってしまいました。
 仕方ないので私は、即効で会議室内の机を乾きかけた雑巾でがががーっと拭いて、事務所に戻りました。お腹もすいていましたし。

 事務所でお弁当を食べ終えて、残ったお昼休みにボーっとネットでヤフーの天気予報を見ている時にそれは起こりました。
 …ごめんなさい、疲れてしまいました。また後日続きを書かせていただきますね、無駄に長くてごめんなさい。
(心に残る最高のセックス掲示板より 2005/07/30)

 
 無駄に長くて、なんてとんでもない。彼とのことを、ひとつひとつ、思い返しながら、丁寧にしたためる蓮芭さんの様子が伝わってきます。彼が既婚者っていうのが残念ですけれど、お2人の距離は徐々に近づいてきてますよね。これから、どう進展していくのでしょう。

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