語り部は由美
大学1年生 淫ら(10)





 夏のキャンプのあとも、私はサークルの男の子たち何人かと時々セックスをする関係が続いていた。キョウスケとは確かに「彼」と「彼女」という間柄だったが、それ以外のメンバーともどちらともなく誘い合って寝た。
 けれどもそれは、激しすぎた合宿の長い長い余韻のようなものだった。夏の灼熱がすこしづつ和らぐように、私の身体の熱も冷めていった。どうして私はキョウスケ以外の人とセックスなんかするんだろうとふと我に返ってしまうのだった。
 しかし不思議なもので、サークルのメンバーとの交わりが減るにつれて、キョウスケとの間にまでなんとなく溝が生まれ、徐々にそれは深くなっていくような気がしていた。
 友人であり、クラブの仲間である、とは思える。むしろそういう意識が大きくなっていく。同時に「彼と彼女という特別な仲」とは思えなくなってきた。
 そうして彼との仲も何となく終わった。心も身体もけだるくなって何事にも感情が高ぶらなくなってきたのかもしれない。
 祭りは大きければ大きいほど、終わったあとに寂しさやむなしさが募る。心にぽっかり穴が開いたようになる。それと似ていた。

 クラブのメンバーと、お酒を一緒に呑みに行ったり、カラオケ屋に入ったりと、騒ぐことはある。
 そんな時な夏の残り香がふっと湧き上がり、乱交パーティーっぽくなってしまうことはあった。そんな時はキョウスケと交わるときもあれば、そうでないときもある。けれど、そこから再びキョウスケとの仲が復活するということはなかった。
 まるでクラブの定例行事を年間スケジュールに従ってこなしていっているだけのように思えた。

 いつの間にか私は恋人のいないフリーの女の子に戻っていた。
 授業にサークルにアルバイトにとそれなりに忙しく、特定の恋人を作りたいとさほど感じはしなかった。ナンパされてその場限りというセックスはそれなりにあったので、狂おしさに身体がうずいてどうしようもない、などと悩まされることもめったになかった。
 なのに、ふとした弾みに妙に寂しくなることがあった。
 例えば、駅のホームで電車を一人で待っているときや、隣からちょっかいを出してくる人が誰もいない授業中や、風がスカートの裾を揺さぶったときなど。
 セックスがしたい、というのではなく、恋人と呼べる人が隣にいればいいのにな、と思うのだ。それは性欲とは異なった心の渇きからくる欲求だった。
 一方、それとは全く逆の感情にとらわれることもあった。
 誰でもいいから抱かれたい、と。
 この二つの想いを同時に一人の人に重ねることが出来たとき、それが新しい恋人となるのだろう。
 恋人と呼べる人が隣にいてくれたらいいのになと思い、その人に抱かれたいなと感じ、そうしてはじめて関係が成立するのだ。私は今更ながらそんなことに気がついた。
 でも、結局のところ、自分から誰かに心をときめかさない限り、周りにどんなイイオトコがいたとしても「素敵だな」などとは感じないのだと思う。
 私は、自ら心を閉ざしているのだ。

 特定の彼氏を作らないまま時々ゆきずりのセックスをしているうちに、秋は深まっていった。
 私の身体は変調をきたしていた。
 あれだけ無茶苦茶なセックスをしたのだから、覚悟はしていた。が、やはり生理がこないのは憂鬱だ。バージンとかほとんど経験がないなんて子が、衝撃的なセックスを体験したショックで「遅れる」とか「間が飛ぶ」などというのは良くあることらしいけれど、これまでさんざん好き放題やってきた私がいまさらそんな影響を受けるとは思えない。
 けれどもやっぱり「遅れているだけなのよ」と思いたかった。
 しかし、冷静に考えればこれまで妊娠しなかったほうが奇跡なのである。
 とにかくなるべく早く病院へ行かなくちゃと思った。恋人とのセックスで「出来ちゃった」ならともかく、乱交しての結果だから相手が誰すらかもわからない。選択肢は用意されていない。始末するしかない。
 人の命をなんだと思ってるんだ、なんて誰かに叱責されているような気分になる。けれど、とてもじゃないけれど、産めない。
 いや、まだ妊娠したと決まったわけじゃない。
 ただ生理がないというだけの話である。
 きちんと病院で検査してもらいもせずに結論を出すのは早すぎる。
 そう思いながらも、私は病院へ行く日を、一日、また一日と先延ばしにした。しかも半ばヤケクソでゆきずりのセックスも繰り返した。どうせ妊娠してるんだからやってもやらなくても一緒。そう思うと奔放になれた。
 そして、後悔した。
 もしかしたら遅れているだけかもしれないのに、誰とも知れぬ相手とセックスすることで、いよいよ本当に妊娠してしまうかもしれないのだ。けれども、私には歯止めがなかった。
 
 妊娠検査薬を買おうと思いついた。産婦人科に行かなくても妊娠しているかどうかのチェックは出来る。どうして今まで気がつかなかったのだろう。
 薬局で検査薬を買った。説明書には「妊娠検査薬は完璧ではない」と書いてあった。本当に妊娠しているかどうかをきちんと調べるには医者に行くべし、と説明されている。
 この検査は「目安」でしかない、と。
 だが、とりあえずは目安で十分だ。
 所定の場所にオシッコをかけて判定結果が出るのを待つだけの簡単なものである。
 私はそれを持ってトイレに入った。
 そのときだ。
 それまでなんとなく下腹部に不快感があったのだが、妊娠しているせいかもしれないなどと思いはしたものの、さほど気にしていなかった。けれど、それどころじゃない事態が起こった。
 急に激痛が走ったのである。
 それは子宮のあたりだろうか。「痛エ!」とお腹のある部分を押さえたのはほんの一瞬で、すぐにお腹全体が痛みに覆われた。
 とっさに「何かが出てくる」と感じた。
 私は慌てて下着を下ろして便器に座った。

 私のアソコからは動物の腐乱死体のような匂いのする赤黒い固まりが降りてきた。
 痛みが落ち着いてから改めて検査薬を使ってみたが、妊娠はしていなかった。
 結果は100%ではないらしいのだが、多分していないだろう。妊娠していたらあんなに臭くて気色の悪い物質が排出などされるわけないと思った。
 私のどこかが壊れているのだろうか。
 子宮か卵巣かわからないけれど、私の中のどこかがおかしくなっているに違いない。誰かに病気をうつされたのか、それともばい菌か何かが入ってしまったのだろうか。
 よくわからない。
 妊娠への憂いはなくなったが、もしかしたら子供の生めない身体になってしまっているのかもと思うと、背筋が寒くなった。
 
 膣から気味の悪い物質が排出されて以来、私は性欲をなくした。時々オナニーをして快感にふけってはいたけれど、ただ気持ちが良いからしているだけであって、いわゆる性欲とは別のものだ。なぜなら、男に抱かれたい、という気持ちにはなれなかったからだ。
 風景が精彩を無くしていることに気がついた。もう11月になっていた。
 そういえばここ一月ほどは下腹部に妙な痛みが走ったり、変なものが降りてこないなと思った。その直後、夏合宿以来途絶えていた生理が来た。
 成美サンから「今日は明るいわね」と指摘された。
「何かいいことでもあった? 新しい彼が出来た、とか」
「新しい彼はまだ出来ないけど…」
「けど?」
 私は久しぶりに生理が来たことを成美サンに告げた。
「あら、良かったじゃない」
「うん」
「でも、これからはちゃんと避妊しないとね」
「だけど、だれもゴムなんて付けてくれないじゃない」
「付けてって言わないからよ」
「言ったら付けてくれる? とてもそうは思えないけれど」
「うちは別に女の子を使い捨てにするサークルじゃないのよ。要求すれば応じてくれるわ。でも、たいてい女の子の方で対策しているから、男の子はいちいち聞いてはくれないの」
「対策って、ピルとか?」
「そう。薬に抵抗があるんだったらリングを入れるとか方法もあるし」
 そうかあ。これまで避妊は男の役目、みたいに思っていたけれど、こっちが対策していれば何の心配もないんだ。
「産婦人科の先生、紹介してあげようか?」
「今は必要ないですけど」
「彼氏がいないから? そんなことないわよ。12月に入ったらすぐ忘年会合宿があるのよ」
「あ!」
 忘れていた。
 そう、忘年会合宿。夏合宿とは異なり、何らかの活動をするわけではなく純粋な宴会だ。たった1泊だけど、そこそこの旅館に泊まって、騒ぐ。
 ここで乱交パーティーになるのは目に見えていた。
「ちゃんとしておけば彼氏が出来たって心配ないし」
「そうですね」と、私は返事した。
 忘年会合宿の乱交はともかく、彼氏は当分できないだろうなと思った。そんな気分になれない。
 
 そんな気分になれないはずだったのに、転機は訪れてしまった。
 満員電車で痴漢にあったのだ。痴漢の指が眠っていた私を目覚めさせた。
 その日の私は、白いブラウスの上に紺のブレザーを羽織り、赤を基調にしたチェックのスカートをはいていた。長さは膝がかろうじて見える程度。
 ぶりっ子と呼ばれる恐れはあっても、色気のある服装ではない。でも、私は痴漢にあった。
 
 最初、私はそれが痴漢であることにすら気がつかなかった。膝の裏側から10センチほど上に指の触れる感覚があったけれど、電車が混雑しているのだから仕方ない。仕方ないから我慢をする、というところにすら到達していなかった。これだけの混雑なのだから、どこかに誰かの何かが触れるのはちっとも不自然じゃなかった。
 列車の揺れに合わせて指は動いた。そういえば肌を人に触れられるってこんな感触だったよなと、懐かしい思いがした。
 指の位置がすっと動いて、太ももの後ろから内側に進んだ。私は思わず「この野郎」と心の中で叫んだ。混雑しているのをいいことに、偶然触れた指を欲望に任せて動かすなんてとんでもないやつだ。
 これが偶然ではなく、明らかに意思を持った痴漢であることに気がついたのは、その一瞬後だった。膝から10センチ上は今日の服装ならスカートの中である。普段から短いスカートをはき慣れていたからうっかりと気がつかなかった。そこはスカートを捲り上げるか、スカートの中に手を忍ばせるかしなくては、触れることができない場所だった。
 手首をつかんで上に持ち上げ「痴漢です」と叫んでやろうか。
 それとも、思いっきりつねってやろうか。
 そんなことを考えたけれど、実際は列車が大きく揺れて全体的に乗客がたたらを踏んだのに合わせて足の位置をずらせるのが精一杯だった。
 痴漢を吊るし上げることは出来なかったけれど、とりあえず男の指は私の太ももから離れた。
 
 痴漢との接触が解かれ、私はため息をついた。そんなつもりはなかったのに、思わず身体を硬くしていたらしい。ため息をつくのと同時に、身体の力が抜けていくのがわかった。
 指を這わされただけで乱暴に押さえつけられたわけではない。にもかかわらず、太ももの上に指の軌跡が残っていた。熱くなっていた。
 さほど背の高くない私は前後左右を人の壁に遮られ、窓の外の風景はろくに見ることが出来ない。けれど、それら人々の隙間から差し込んでくる陽の光はわかる。列車がカーブし、光の筋が移動してゆく。
 列車が揺れる。
 スピードを落とし、カーブ上に設けられたポイントを渡ってゆく。駅が近い。
 その時だった。
 さっきよりも遥かに高い位置、お尻の下わずか数センチの位置に指がとりついた。
 列車の揺れによる偶然かと思ったが、スカートの上からならともかく、直接指が触れている。いつの間にか高い位置までスカートが捲り上げられていた。
(いや!)
 反射的に振り払おうとしたが、大勢の乗客の身体に遮られて身じろぎできない。
 さらに列車は速度を落とす。ブレーキ音が車内にまで響く。いよいよ駅だ。
 列車が止まり、ドアが開けば、人の動きがあるはずだ。そうすればすぐに痴漢の指からは解放されるだろう。少しの我慢だ。
 列車の到着を告げる車内アナウンスが流れ、スピードがぐんぐん落ちてゆく。まもなく停まるだろう。列車は減速をやめ、ゆるゆると進む。停止位置を探っているかのようだ。
 それまで進行方向につんのめるような体勢だった乗客たちは、私も含めて慣性から開放された。身体の傾きが元に戻る。あと少し、あと少しの我慢だ。
 ここぞとばかりに痴漢は掌全体を太ももにあてがい、何本かの指先を肌に食い込ませるように動かした。
「あ…」
 思わず私は小さく声を漏らした。
 男の指の感触。その快感を細胞が覚えていた。

 列車が停まりドアが開く。私は扉の傍まで降りる乗客に押し流された。ホームの上ではドアの手前で左右に分かれて乗車を待つ列が長い。おそらく降りる人以上に乗る人のほうが多い。私は端によって足を踏ん張った。ホームの人垣が一段となって車内に押し寄せてくる。私はまた流される。
 ホイッスルがなり、扉の閉まる音が聞こえる。
 お尻の左側に掌があてがわれ、その指先はちょうど私の肛門の上にあった。
 人並みに翻弄されて行ったり来たりしているうちにほぼ同じ位置に戻ってきていた。その間、痴漢はその場に留まっていたのか、私と一緒に押されるままになっていたのか、それはわからない。乗車が終わって再び車内がすし詰めになったとき、私と接触できる位置を計算してキープしたのかもしれない。
 最初に触られたときは嫌悪したが、ある一瞬を境に、私の太ももは人肌への郷愁に彩られていた。ある一瞬──指がくくっと食い込んだあの時だ。

 スカートがどういう状態でまくれあがっているのか確認するすべはない。男の指の動きに神経が集中する。
 痴漢の指先は肛門からヴァギナに向かってそろそろと降りてくる。一刻も早く一番敏感な部分に辿り着こうとするような焦りはない。男の指先はアヌスからアソコへの移動を楽しむように、掌の押し付け具合に緩急を付けながら、微妙な圧力でパンティーの上から私を弄んだ。
 通勤快速はこの先20分程度停まらない。終着駅のひとつ手前と、その次の終着駅の二つで終わりだ。
 じわりとアソコが液体を出してパンティーを湿らせてゆく。
 指は巧みに襞をかきわけて私の秘部をあらわにしていった。
 下着に阻まれながらもこんなことが出来るんだ。私はちょっと驚いていた。
 襞の内部は受け入れ準備完了とばかりに湿り気を増やしながら開いてゆく。
 少しづつ増幅してゆく快感とさらなる侵食を望む期待が私を包んでいった。
 ヴァギナに差し掛かるかどうか、というところで男の指はそれ以上先へ進まなくなった。クリトリスまで届かない。満員電車の中、男だって自由に身動きが出来るわけじゃない。痴漢がどんな体勢なのかわからないけれど、それが限界のようだった。
 私の中の妄想はその先にまで進んでた。
 膣口をぐちゃぐちゃといじられ、クリトリスを圧迫されることを望んでいた。しかし、そうはならない。中途半端な快感が私をじれったくさせた。
 列車のスピードはあまり出ていない。運転本数が多く、前に何本もの電車がつかえているのだ。先行する普通列車が待避線に入ると私の乗った電車はスピードを上げる。けれどまた前方に違う電車があり、速度を下げる。そんなことの繰り返しだった。
 速度が変化するたびに列車は揺れる。その揺れを利用して、私は痴漢に近づこうと身体をよじる。
 痴漢もカーブの揺れなどを使って体勢を変えようとしているらしかった。
 ターゲットの女の子は、抵抗するどころか、むしろ積極的に受け入れようとしている。痴漢にもそれは伝わったのだろう。指先の動きが急に積極的になった。パンティーがタップリと濡れていることもわかったはずだ。指先は股間の布をまさぐるようにしてひっかけ、脇へ押しやられた。
 くちゅ。
 にゅる。
 わずかな音が耳まで届くわけがない。けれど、私にはその音が聞こえたような気がした。蜜を絡めとるような指の動きに、喉の奥で私は「ああ」と息を漏らさずにいられなかった。

 身動きできないなりにも接近を試みていた私たち。そのとき、列車が大きく揺れた。男の手が消えた。
(え? うそ?)
 じわりじわりといい感じになりつつあった私たちは、揺れの偶然で身体が離れてしまった。二人とも揺れに任せていれば同じように揺さぶられて身体は接近したままだったろう。妙に位置を変えようとしたのがあだになった。
 しまった、と私は思い、ああ、いつのまにかもっと激しく痴漢されるのを望んでいたんだと改めて気付かされた。
 移動する余裕などないくらいの混雑した車内。小さな悲鳴があがるほどの揺れ。ポイント通過と加速とカーブが重なって、乗客全員がよろめいた。触り、触られるために不自然に身体をくねらせていた私と痴漢の間に空間が出来た。
 痴漢はスイとその空間に侵入し、私の真後ろに立った。
 私の耳たぶに唇が触れた。
 前にも手が回ってきた。
 私の股間は前後両方から痴漢の掌でふさがれた。
 華麗なピアニストのような指の動きに、頭の中が白くなる。深呼吸を意識することでゆっくりと息を吐き、官能の声が出るのを防ぐ。
 膝に力が入らなくなり、身体が崩れかける。
 そして、(あ、いけない)と我に返る。
 ここは電車の中。大勢の人の目と耳がある。こんなところで愉悦に身を委ねてしまうことは出来ない。
 しかし、痴漢の手は容赦ない。
 私がタップリと感じていることが彼の動きをエスカレートさせる。
 耳の後ろを舌が這う。
 乳首が痛いほど立っている。
 触ってほしいけれど、それは無理な注文だ。彼の手は2本とも私の股間にある。
 もっと、ああ、もっと。
 こんなことならノーパンでいればよかった。じれったさに喉の奥をかきむしりたくなる。ノーパンで出歩くことなどこれまでくらだって経験していた。どうして私は下着なんか付けているんだろう。ブラだってしていなければ、ぷっくりと乳首が屹立しているのを周りの誰かに気付かれたろう。二人目の痴漢が胸を触ってくれたかもしれない。複数プレイだってさんざん経験している。
 ああ、どうして私は普通の女の子みたいにきちんとブラとパンティーをしているのかしら。
 こんなに淫乱なのに。
 どこの誰かもわからない男といくらだって寝てきたのに。
 こんな状態になるなんて予想もしていなかったのだから、服装をきちんと整えて外出するのは当たり前のことだったけれど、快感の部屋へと通じるたった一枚の最後の扉を閉じていることが悔しかった。
 しかし男は、当たり前を克服するすべを心得ていた。
 パンティーのお腹側とお尻側に指をかけ、一気に引きおろしてきたのである。
 ハイレグでしかも伸縮性のあるパンティーなので、なかなか思い通りにズリさがってくれない。せめて紐パンだったら、結び目を解けば簡単だったのに。
 ハイレグパンティーは鏡に映った自分の姿を見つめたときには明らかにカッコイイけれど、不自然な状態で脱がせるには一筋縄でいかないのだ。
 男はパンティーを脱がすのを諦めたようで、無理に手を押し込んできた。しかし、伸びる素材なので、若干の抵抗はあるもののスイと男の手は侵入してくる。
 前から後ろから指先で刺激をされて、再び頭の中は真っ白になってゆく。
 肉の中に埋もれた快感のひだを引っぱり出して、ひたすら優しく愛撫されたかと思うと、神経そのものをちぎられるほどの快感が交互に走る。まるで私のアソコはエッチなことのためだけに存在するかのように変化していくのがわかった。
 声を出さぬように耐えているのは私だけじゃなかった。耳にかかる男の息が荒い。男の興奮がビンビンに伝わってきた。
 ついに私は本当に立っていられなくなった。
 膝を折ってしまったのだ。
 けれども、その場に座り込むことが出来ようはずもない。私の傾いた体は周囲の何人かの人たちによって支えられていた。
「あぁ〜、ん」
 小さいながらも声を出してしまった。
 列車の走行音や線路の継ぎ目を踏み越える振動音など、決して車内は静かじゃないのに、どうやらごく周辺の人には気付かれてしまったらしい。私の視界の中にいる3人ほどが窮屈そうにしながら首だけ回して私を見ようとしていた。
 きっと私の表情は官能に彩られてぽってりと色っぽかったろう。
 乗客の一人とはっきり視線が交錯してしまった。その人は慌てて視線をそらした。
 きっとバカなカップルがこんなに混雑した電車の中でいやらしいことをしているとでも思っただろう。
 実際これだけ人でギッシリ埋まった車内なら、下腹部を触りあっていてもその部分を見られること滅多にないだろうし、おまけに私はスカートを履いている。スカートに視線を遮られて、たとえその中に男の手が伸びていることは確認できたとしても、そこまでである。公園のベンチでセックスしているより考えようによっては恥ずかしくない。
 しかし、さすがに痴漢本人はまずいと思ったらしい。
 手を引っ込めてスカートを元に戻した。
(ええ? これで終わりなの?)
 半ばがっかりしていると、耳元に小さく「次で降りよう」と声が届いた。ハートの奥をそっと震わせるような低い声だった。その声は新芽に悪戯する春風のように私の芯を揺さぶった。
「それとも、急ぎの用事かなにか?」
 私は返事が出来なくて、ただ首を横に振るだけだった。
「思いきり感じていたね。もっと感じさせてあげるよ」と男はつぶやいた。
 痴漢は私の手を握った。仲の良い恋人同士がそうしているような錯覚に陥った。
 私の意識からは「痴漢にいやらしいことをされている」という嫌悪的な感情は払拭されていた。
 抱かれたい。
 ただ抱かれたかった。

 それから列車が停止するまで5分あまり。
 私はつないだ手から愛情を感じ取っていた。