語り部は由美
大学1年生 淫ら(1)





 受験勉強と恋愛が両立できないなんて嘘だ。なーんてことをこのわたしが大きな声で堂々と言おうものなら、きっと多くの受験生にののしられるだろうな。
「これまでさんざん好き勝手なことやってきたくせに」
「最終的にちゃんとした彼氏を作って精神的にも落ち着いて受験勉強に没頭できたんだよね、そうでしょ?」
「こっちがストレスたまりまくって悶々としてたときに、そっちは男とセックスやりまくってたんでしょ?」
 わたしのこれまでの男関係が乱れていることを、うすうす勘づいているクラスメイトは決して少なくない。いわゆるガリ勉ほど、「ふん、あんなコなんて」と軽蔑のまなざしをわたしに向ける。けれど、わたしは大学に合格してから気がついた。そういうガリ勉ほど、わたしのことを意識していたのだ。模擬試験などの結果は上位の者は掲示板に張り出されるなどしていたんだけど、そこにわたしの名前を見つけることが出来る。
「あんな子が、どうして??」
 ガリ勉連中はそう思っていたのだ。
 男とさんざん遊んでいるくせに成績のいいわたしは嫉妬の対象だった。化粧にも服装にも髪型にも頓着する暇も無いくらいに受験勉強一筋の女の子ほど、その嫉妬心は強く、同時にわたしのことを羨ましく思っていたのだった。

 やりたいことをやりたいようにやっている人ほど、やるべきことがあるときは一時に集中してどかーんとやれるもんなんだ。そう気がついたのも大学に合格してからだった。
 別にわたしは彼女たちが表で裏でわたしのことを悪く言うのを何とも思っていなかった。同じ大学に進む人もいるから気にならないではないし、どうせ噂話をされるなら悪く言われるより良く言われた方がいいに決まっていたが、でも別にどうでもよかった。彼女たちだって大学に行けば化粧や服装や髪型に気を使わざるを得ないだろう。自分の視野が狭かったことも思い知らされるだろう。恋愛をして男を知って、セックスだってするだろう。わたしのような淫乱にならなくても、セックスの会館に身もだえするときがくるはずだ。
 だけど、相変わらずわたしのことを色眼鏡で見るのなら、それはそれで構わない。わたしだって、大学の広い世界に飛び出すのだ。たかが同じ高校出身者がどう思ったってたかが知れている。

 でも、割り切れないこともあった。
 千代田君との別れだ。彼は浪人する羽目になった。
「毎日ヤリまくっていたのが悪かったかなあ」
 彼は冗談半分で言ったけれど、わたしは冗談でもそんなこと言って欲しくなかったし、残りの半分は本気のようだった。
 やめてよ、って言いたい。だって、わたしは合格したんだよ。
 童貞だった彼とわたしが結ばれてからは、徐々にセックスの回数が増え、そのうち彼は夢中になった。わたしが塾から帰るのを待ち構えていて、そのまま公園のベンチや神社の境内の茂みでセックスした。
 わたしと出来ない日は、もっぱらオナニーにふけっていたらしい。
 ともあれ、セックスした日もオナニーした日も、頭の中からわたしのことが離れず、他のことに全く手がつかなかった・・・。

 そんな告白をされたって、わたしも困る。
 童貞だった彼にとって、確かにわたしとのセックスは刺激的過ぎたかもしれない。でも、だからって、それを受験勉強できなかったことの理由にはして欲しくない。
 大学に合格できずに浪人したからって、その男への想いが冷めたりなどしないけれど、そんなことを告白してくる男であったのかと思うと、徐々にわたしの熱も冷めてくる。
 仮に、浪人しているにもかかわらず、さらにわたしに夢中になってセックスに明け暮れ、またまた不合格になってしまった、なんてことがあってもきっとわたしは千代田君のことを嫌いにはならなかっただろう。でも、「きみのことを考えると何も手につかなかったんだよ」なんて言い訳をされると、がーっくり来てしまうのよね。
 そこまで夢中になってくれるのは嬉しい。けれど、そのためになすべきことが出来なかったことは、恥ずかしいことだとわたしは思う。それが事実であっても、そんな恥ずかしいことは口にすべきではないのだ。

 彼はそんなことをわたしに言って、わたしに何を求めていたんだろう?
 さっぱりわからない。
 ともかくわたしと彼との仲には溝が入った。
 
 受験に結果が出てから、大学が始まるまでには間がある。
 その間、わたしは「エッチ氷河期」を体験した。
 千代田君の言動で「ハート」は冷めて行っていたけれど、脳みそで「考える」部分ではわたしはまだ彼のことが好きだった。少なくとも他の男に乗り換えることは出来ないくらいにはまだ彼のことを想っていた。なんとかやりなおしたいと思っていた。
 けれど、わたし自身のハートがバアッと燃え上がらなくては、どうしようもなかった。
 セックスの回数が減ってゆく。わたしから誘うことは少なくなり、彼の誘いにもああだこうだと理由をつけて断ることが多くなってゆく。すると徐々に彼の方も誘わなくなってくる。こうして、自然に消滅してしまった。
 お互いやりたくて仕方ないのにどうしてもはずせない用事があって出来ないというのではなく、単にわたしの「気が乗らない」のが理由だから、そういうのってなんとなく伝わるものなのよね。

 だけど、わたしは処女でもなく、セックス初心者でもない。セックスなしではいられない。日々の色々な営みの中にセックスは当たり前のように組み込まれている。
 伝言ダイヤルやQ2というのがこの頃から始まっていて、そういう所で相手を2・3度調達した。でも、定期的に逢える仲にはならなかった。
 わたしは自分の中でひそかに「エッチ氷河期」と名付けたのだった。
 大学に入って、わたしの目の前はパアーッと明るく輝いた。
 これでエッチ氷河期がおわるのだと実感した。
 キャンパスにあふれる男・男・男。
 つまらない男もたくさんいるだろう。けれど、イイオトコだってたくさんいるはずだ。
 大勢の男たちが大学を闊歩している。わたしは思わず「このうち何本のチンポがわたしのもの???」なんて思ってしまった。
「よおおし! やりまくるぞ!」
 決意を思わず口にしたような気がして、わたしは慌てて自分の口を押さえた。じゅわっとアソコが濡れてくる。ああ、わたしってホント、スケベだ。
 
 というわけで、出逢いはサークルとコンパ。
 学部や学科を詳しく書くとばれてしまいそうなので、ここでは「社会福祉関係を専攻」とだけ書いておくね。
 といってもクラスで教室に集まる機会は少なくて、1年生の間は一般教養科目を大教室で受けることが多い。まだわたしにはクラスの結びつきは小さかった。
 サークル活動も何かやりたかったけれど、気楽なのが良かったので、安易なサークルに入った。サークル名は内緒。これもわかる人にはわかるから。
 どんなことをしていたかというと、冬はスキー、春と秋はテニスやサイクリング、夏は海で泳いだり山でキャンプしたりって言う、アウトドア系の遊び中心だ。
 集まってる人間はそこそこ愉快でナンパな奴らなんだけど合宿そのものはハードらしい。スキーなんかは必ずスクールに入らないといけないし、キャンプだって本格的。車でサイトに乗り付けてバーベキューなんてのじゃなくて、一週間ぐらい平気で山の中を徘徊する。男の子は30キロぐらいの装備を持たされる。
 陽気でナンパだけれどそれなりに本格的で体力面だけとれば体育会系に近いものがあった。
 1人でも多くの新入生を確保するために、「楽しい面」ばかりを強調して勧誘するサークルが多い中、厳しいことをきちんと説明してくれるのが気に入って入部することにした。
 「気楽で安易なサークル」を探していたはずなのに、「シーズンスポーツを楽しむサークルだから、きっとそうだろう」といそいそ出かけて行ったのだが、当初の目的と違ってそれなりにまじめに活動しなくてはならなくなってしまったかもしれない。このサークルがむちゃくちゃわたしを淫らにしてくれるとは、このときはまだ思っていなかった。

 わたしが再びセックスにはまりだしたのは、コンパからだった。
 大学に入ってから仲良くなったのがトモちゃんといって、最初の授業でたまたまとなりに座った人。学部も何もかも違うのに、お互い不安が大きかったのか、しゃべりだすと止まらなくなってしまった。
 前髪だけは眉毛と目の間で綺麗に切りそろえた、サラサラのロングヘアー。整ってはいるけどこれと言って特徴のない顔。強いてあげれば少し目がきつい。無表情だとちょっと冷たい印象を与えるかも知れない。これが授業中だとものすごく真剣に講義を聴いているっぽい。
 身長が160に若干届かないことと、笑うととびっきりの愛嬌が表情に現れることが、トモちゃんの武器。
 彼女から「ねえ、合コン行かない? そういうの嫌い?」と誘われたのは4月の第3週だった。
「あ、行く行く」
 「わあ、エッチィ。もうイクイクだって」
 機会あれば下ネタに結びつけてキャッキャはしゃぐ。
 澄まし顔だと取っつきにくい第一印象と、さほど仲良くならなくても「あいさつがわり」程度にあまり品の良くないギャグをかますので、男の子達は彼女の相手がしにくいようだった。
 でもわたしにはわかる。この子、口先だけじゃなくて、相当遊んでいる。
 根拠は化粧ぐらいしかないけれど。派手、ではなくて、かなり上手。化粧をしない男の子には「なんて素肌の綺麗な人なんだろう」って思わせるほど、さりげなく薄化粧。
 色々とやってみて、これが一番いいと辿り着いた結果がここにある。
 元がいいからでもあるけれど、自信を持ってこうだと彼女が胸を張れるようになったのには、男性経験による実績があるからだと感じた。
 うらやましいなあ。
 わたしはほとんどスッピンで、たまに化粧にチャレンジしても、あれこれいじくりまわしたあげくオバケタヌキになるのがオチだ。
 高校の時、就職組は化粧の講習会なんかもあったけれど、わたしのような進学組は別の教室で受験勉強をさせられていた。
 1時間や2時間机の前に座っていたからといって大学に合格できるわけじゃないのだから、わたしもお化粧の講習会を受けたいとか思ったりした。でも、それこそ1時間や2時間講習を受けても、わたしの化粧の下手さ加減は変わらなかったろう。勉強していた方がましだったなとも今なら思ったりする。
「で、いつ?」
「急でゴメン、明日なの」
「ええ、明日ァ?」
「女の子の頭数が足らなくて」
「わたしが行けば足りるのね?」
「それが、全然。もう少しがんばらないと」
「がんばらなくてもいいわよ。二人や三人、相手してあげるわ」
 トモちゃんと彼女の高校の時の男友達(エッチ有り)が企画して、それぞれの大学で頭数をそろえようということになったらしい。男の子が5人。女の子がわたしを入れて3人。
 なんでも「たまには違う女としたいから誰か紹介しろよ」「そっちこそ紹介してよ。上手な人」とやりとりがあって、個人の人脈に頼ったコンパが成立したのだそうだ。
「複数プレイ? そういうのもいいけど、あたしはひとりの人とむちゃくちゃ濃厚なのを今はしたい気分なのよね」
 トモちゃんとは本音でエッチの話ができそうだ。似たような人種なのかもしれない。
 
 貧乏学生のコンパなので、場所は居酒屋だった。
 大きなチェーン店ではない。トモちゃんの彼の大学の最寄り駅の駅前商店街のお店のひとつ。約束は6時だけど、わたしは5時半にはお店に着いていた。呑むには時間が早いせいか、お客は誰もいない。
 カウンターが8席、カウンターの手前の通路を挟んで4人掛けのテーブルがふたつ。通路の奥に座敷。
 わたしは4月から学校の近くに下宿していたので、いったん戻って着替えてきた。久しぶりの男あさりなので気合いを入れてきたのに、本当にごくありふれた居酒屋でちょっとがっかり。というか、場違いな服装?
 黒のタイトミニに、胸の谷間がばっちり見えるキャミソール。色は同じく黒で生地が思いきり薄く、肌色が透けて見える。それに、ラフにジャケットを羽織っていた。
 胸元から手を突っ込まれる所を想像したら、ブラをする気になれなかった。ピョコンと立った乳首が突きだしている。ジャケットで胸元を隠す。
 タイミングを見計らって脱ぐつもりだった。
 「いらっしゃい!」
 親父に威勢良く声をかけられて、わたしはしどろもどろした。予約をした人の名前を告げると奥の座敷に通された。
 ひとりポツンと畳みに座ると、現地集合せずにトモちゃんと待ち合わせれば良かったな、とか思う。
 10分ほどボーとしていると男の子が入ってきて、「○○さん?」と、私の名前を呼んだ。頷くわたし。
 彼からあとの4人が30分ほど遅れるときかされた。彼だけが所属が違う(何の所属かよくわからない)のでとりあえず連絡にきてくれたのだった。
 「ここで待っていてもしょうがないし、お茶でも飲みに行こうか? それとも先にお酒だけでも頼む?」
 「外へ出よう」と、私は言った。
 彼は背が高く、並んで歩くと頭ひとつ分以上身長が違う。
 居酒屋の正面が花屋さんで、その左が和菓子屋さん、さらにその左が喫茶店だった。
 4月の夕暮れは確かに肌寒かったけれど、喫茶店の中に入ると冬並に暖房が利いていた。向かい合わせに座ってすぐ、わたしは特に意識をせずにジャケットを脱いだ。
 メニューを眺めていた彼はわたしに視線を固定させて、慌ててまたメニューを見た。
 注文を終えると、彼は唐突に言った。
「そっちへ行っていい?」
 胸の谷間を見下ろそうという魂胆がミエミエだった。
 気合いを入れてきて良かった!
「いいよ」と、私は言った。
 隣に座って彼はどうするんだろう。おもむろにのぞき込んでくれたら、ちょっと嬉しい。
 大きなオッパイじゃないけれど、なんとか谷間が出来る程度はあるし、形の良さにも自信はある。揉み心地もいいんだよ。
 机の上に運ばれてきたコーヒーを彼はまっすぐ見、視線だけをわたしの方に向けていた。
 その先は、、、、胸じゃない?
 足の付け根とかお尻だった。
 そっか。ミニスカート!
 立っているときはただのミニスカート、だけど座ると、前からお尻にかけて斜めになってお尻がはみ出してしまう。ほとんどそのまま床に座っている感じだ。
「エッチなこと考えてるでしょ?」
「え!」
 盗み見しているのがバレて、おろおろと視線を泳がせる彼。かわいい。
「見られて嫌だったらこんな格好しないわよ」
 わたしはそっと彼の手をとった。
「どこに興味ある?」
「え?」
「触っていいよ」
 彼の手を太股に導く。
「大胆なんだね。それとも、飢えてるの?」
「さあ、どっちだと思う?」
 きちんと閉じていた足を少し広げてあげると、彼のそろえた指先が内股に伸びた。
 遠慮がちに指先が動き、「柔らかくて気持いい」と、彼は言った。
 「うん」と、わたし。
 わたしが素直に受け入れたせいだろう、彼の太股を揉む力が強くなり、手の位置もだんだんおまんこに近くなる。
 湿っている程度だったアソコがじゅるじゅるとラブジュースを出し、指がかすかにパンティーに触れたのを感じると、わたしは蜜をあふれさせはじめた。
 すごく正直に反応しているわたし。彼とは相性がいいよ、と身体が教えてくれる。
 でも、さすがにそこまではと彼は思ったらしく、触れた指先を引っ込めてしまった。
 ああん、やめないで。もっと大胆になってよ。わたしはヤリたくてしょうがないの。そのために来てるのに。
 わたしはたまらなくなって彼の股間に手をあてがった。
 もうカチコチになっている。
 ナマで触っているわけじゃないからそんなに刺激がないかも知れないけれど、丁寧に愛撫をした。
「そ、そんなこと、いいの?」
 恐る恐る彼が言う。
「びっくりした? してもらったことないの?」
「今まで付き合った子、自分からなんてしてくれなかった。エッチの時に盛り上がって、それで『して』って言ってしてもらったことはあるけど」
「奥手なカップルしてたんだ。わたし、気持のいいことだったら何でもして欲しいし、してあげる」
「すごいね」
「普通よ」
 彼の手がグウッと奥に差し込まれる。敏感な部分をもみくちゃにされた。目を閉じるてしっかりと彼の手の動きを全身で受け止める。
 ああ。感じる。
 わたしは目を閉じたまま手探りで彼のズボンのベルトを緩め、ホックを外してファスナーをおろし、トランクスの中に手を突っ込んだ。彼のさきっちょもべちょべちょだ。
 本当は引っぱり出してしゃぶりつきたいぐらいだ。でも、まさか、普通の喫茶店でそこまでは、ねえ。
(激しく興奮したらやっちゃうかも知れないけど)
 彼の指がパンティーの横から入り込もうとしてくる。ああ、じれったい。もうナマでぐちゃぐちゃにかき回してエ。
「横が紐だから、ほどいていいよ」
「ほんと?」
「うん」
 スカートの中でもぞもぞと動いていた彼の手が出てきたとき、掌にちっちゃなわたしのパンティーが握られていた。
 その時、喫茶店の扉が開いて、トモちゃんとおそらく彼女のエッチフレンドが顔を出した。
「あ、いたいた」
「はじめるぞ」
 彼は慌ててわたしの下着をポケットに突っ込んだ。
 わあ、どうしよう。ノーパンで座敷に座るの?
 もうお汁があふれているのに。
 お尻に誰かの手が伸びてきたら、すぐにおまんこに手が触れてしまう。
 そう思うとますます濡れてきた。
 何人にもまわされたり、ザーメンだけを口にして一日を過ごしたあの熱い日々が蘇ってきた。
 狂っちゃう。
 そんな予感がした。