「キオト」
■INTERVAL-1-
 恋なんて単純なんだと思った。

 初めて康之の布団で目が覚めた朝。たばこの匂いとは別の匂いが充満してる。私にはない匂い。だから、これが康之の匂いなんだろうと思って深呼吸してみた。ぺしゃんこの布団に二人で包まって、私の方へ向いたあなたのまぶたを見つめた。

 いわゆる同期組だった私たち。
 バブルがはじける前はまだ羽振りの良かった中小企業で 私は総合職に配属された。と言っても、チームで営業に回るのでスタンドプレーは要求されない。

 寝食をともにしたとまではいかなくても。
 朝から晩まで顔を突き合わせていると、情もわいてくる。同じ仕事をする一体感から自然と一緒に帰ったり、飲みに行ったりそのうちお互いの家で泊まるようになって。

 何度目かの朝。
 私のベッドで起きた康之はゆるい笑みを浮かべた。
「女の子ってもっと甘い色を好むと思ってたけど、 なんだか弟みたいな部屋に住んでるな」
 白のブラインドを指で持ち上げながら外を確かめた後、私を抱きしめた。始まりなんて、なんだっていいんだって知った。

 康之はカメラが好き。

 別に被写体にこだわってるわけじゃなく、なんとなくファインダーを覗く瞬間が好きだといった。
「響子、スマイルスマイル……ほらぁ」
 もう、やめてったら。今、寝起きでまぶたも腫れぼったい。第一、化粧だってしてないこの顔をとられるなんて、いくら康之でも許せない。私はシュミーズの肩紐を引き上げながら、康之の方へ足を踏み出す。

 彼が後ずさりながら私にレンズを向ける。寝起きの私が相当機嫌が悪いことを知ってるくせに、こうやって康之は意地悪をする。OKをだすことがないことも知ってるのに。
「もう……やめてって……」
 私がレンズをつかもうと、右手を伸ばしたときにフラッシュに目が眩む。
「きゃぁ……」
 反射的に顔を手で覆う。シュミーズ姿の胸やお腹よりも。薄いレースのショーツが透けて見えてるとしても。

 康之は、にやりと唇の端を引いてとどめをさした。
「だって、フィルム入ってないもん。これ」

 まんまとくわされた。

 

モクジニモドル//ススム