Boy Meets Girl
「side KYRIE」

11.光

 空港のゲートは、ピカピカと金属の眩さを放っている。結局、あたしもタクトも逃れられなかった。抗ったところで所詮、このシステムは壊せない。十五才のあたしたちにはシステムは壊せない。

 オリジナルのあたしはここを出られない。
 レプリカのタクトはここにいられない。

 一斉射撃は、"派手な瞬きのレビュー"さながら。楽しみの少ない入管管理局の奴らにとっては、ほんのちょっとしたゲーム。業務遂行という名のもとの"三文オペラ"。タクトの体は、反動で波打ちながら地面に突っ伏した。あたしは血まみれのタクトのそばに駆け寄った。

 あたしのおかあちゃんと、タクトのおとうちゃんが、なんであたしを抱っこしてたのか? タクトが大事に持ってた"おまもり"の写真。そう、あたしとタクトは同じ遺伝子をもって生まれた。"R計画"では忌み嫌われた"双子"だったのだ。

 タクトは死んだ(と聞かされた)母親をあたしに見ていた。だから、女の子に慣れてないのにあたしには打ち解けた。あたし? そうあたしだって。十三の頃から数え切れないほど、色んな男と寝てきた。こんなあたしだけどタクトは違った。

 優しかったの。まるで砂糖菓子を扱うように。あたしのコト、汚いなんてぶたなかった。セクサロイドみたいに嬲(なぶ)ったりしない。あたしを"性玩具"(オモチャ)にしなかった。あたしの気持ちを確かめてくれた。いつだって。

 あたしたちは、何も知らないで知ってしまった。
 何も聞かなくても、あたしたちは通じてしまった。
 "失った片翼"が呼び合うように。

 タクトが知りたかったものはなんだったろうか?

「最後の夜だから」
と、昨夜はこっそりタクトの部屋に呼ばれた。
「本当はオリジナルにラヴを探しにきたんだ」
 そういってタクトがみせたカバンには。溢れんばかりのコピー紙が詰まっていた。それは二十世紀に、流行ったり流行らなかったりした色んな恋の歌。

「一週間ではこれだけしか集められなかった」と笑ってた。
 男女三十四人、合計六十八個の恋愛サンプル。男と女、年上年下、インセスト(近親相姦)も同性愛も、ありとあらゆる"コイノスタイル"。タクトが一枚ずつ取り出して、あたしに見せながら歌詞を口ずさむ。あたしもタクトも、まだ生まれてなかったからメロディが判らなくて。でも、あたしたちは、珍しさもあって朝までかかって歌ってみた。静かな夜に、小声でさえずる小鳥のように。やがて訪れた朝陽の中で、なおもかすれる声で歌い続ける。

 でたらめな節で奏でる恋の歌。

 空港のゲートはピカピカと金属の眩さを放っている。あたしに向けられた銃口の照り返しもまぶしかった。



 ねぇ、あたしとタクトは何番目?

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