Boy Meets Girl
「side KYRIE」

3.仕組み

 物心ついた頃にはおとうちゃんはいなかった。
 あたしがまだ小さかった頃、聞いたことがある。
「あの新しい地球は、おとうちゃんのプロジェクトでできたんだよ。いつか、あたしたちもあっちで暮らせるんだよ」
 でも、おかあちゃんはウソをついてる。おとうちゃんは"迎えにこない"。

 おかあちゃんがこんな風に壊れてしまったのは、生きていく意味がないってこと。希望を持つだけムダだって。口にはしないけれど。あたしとおかあちゃんは、ううん、この星に残ってるみんなは"選ばれなかった"ってこと。だからおとうちゃんはあたしたちを"捨てた"んだ。

 乱開発と言うのだろうか? 人間は住みやすさを追求したあげく、地球を壊してしまった。動植物が滅んでいく星が生態系を崩し、オゾンが充満していく。あれだけ森林があったのに、今はほとんど見当たらない。人間は公園を眺めるだけで立ち入ることはできない。

 二十一世紀も後半だというのに、あたしたちは変わらない。 眠らないと死んでしまうし、悲しい時でもお腹は減る。いつまでたっても、男は女を欲しがり女だっておんなじ。

 政府からの支給ではやっていけないとおかあちゃんは、夜毎街へ出かけて男を漁る。「手に職もなければ頭もない」と言って卑下しながら手っ取り早い収入を得る。

 十三才の夏だった。
 もやもやとした鈍痛と吐き気。立ち上がった椅子に漏れた血を認めて、あたしは女になったことを知る。
 しるし(初潮)がきた日から、私も同じように繁華街で軍人相手に夜を過ごすコトが多くなってきた。おかあちゃんほどうまく悦ばせることはできなかったけど、それでも "はつもの"を喜ぶような親父連中相手に稼ぐことができた。

 なんだかんだいってる奴等。聖人君子を気取ったところで男の下半身は別人格だ。非公認の売春行為で彼らは満たされる。

 おかあちゃんは時々、タンスからおとうちゃんの写真をだして泣いてる。こっそり見たその写真は、もうボロボロで色褪せてはいたけれど。艶やかな笑みをうかべたおかあちゃんと赤ん坊のあたしとおとうちゃん。
 背が高くて、さっぱりと耳をだして刈り上げられた頭。白っぽい開襟シャツ。たくましい胸だった。

 どこかで、あたしを必要としてくれる人がいるんだろうか? 誰も誰も教えてくれないなんて残酷すぎる。

 だから夜はキライ。このまま眠ると朝がこない気がする。
 いつもいつも。

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