アスワンの王子
街道の4 奇妙な3P





 若くて生命力旺盛なヨウシャは、食事をとるとすっかり回復していた。
「今夜はおとなしく寝ているのよ」とコリナに言われ、事実その通りにしようと思っていたのだが、身体が回復するとムクムクと性欲が湧きあふれてくる。
 外界と家を隔てる壁は土を練って焼き上げたもので作られていたから防音効果にすぐれていたが、隣の部屋との境界は、裂いた竹を幾重かに編んだだけのものなので、音が響いてくる。隣の部屋では、今まさにコリナと月光とのセックスが始まっていた。
 高くてかすれた月光の声は、コリナの性器を褒め称えていた。聞いているだけで恥ずかしくなるような、しかし興奮を盛り上げるにはぴったりの台詞の連続。一方コリナは官能芝居の女優が口にするような言葉しか発しない。
 演技を絵に描いたような台詞だが、それが本物であるのならば、コリナの快感は極限に達し、さらに限界を超えようとしていることは明らかだ。
 ヨウシャのアソコはぐちょぐちょに濡れ、しかも気が付いたら手で慰めていた。
 我慢できなくなったヨウシャは、ベッドに座り、両足を大きく開いて、道中手に入れたオナニーの木を自分の中に差し入れた。
 この木の傘の広がりは尋常じゃない。けれども、十分に濡れていたヨウシャは易々とオナニーの木を受け入れることが出来た。入れたり出したり、ぐりぐり回したりしながら、ヨウシャはコリナに負けないほどの声を立て始めた。すぐそばで営まれる濡れ場を、伝わってくる声だけを頼りに場面を脳裏に描きながら。

 夢中になりすぎて侵入者に気が付かなかった。老婆トコがヨウシャのために果物を運んできたのだった。
 (このままだとイッちゃう)と(このままイッてしまいたい)というふたつの感情がヨウシャを包み込んだとき、老婆トコはヨウシャの顔をぬっと覗き込んだ。
「きゃあ」
ヨウシャは思わず叫んで、オナニーの木をスッポとまんこから引き抜いた。
(ああ、恥ずかしい)
 心の中でため息をつく。
 セックスそのものを見られるより恥ずかしいんじゃないかとすら思う。なぜならオナニーは、相手がなく、ただひたすら己の快感だけを求める行為だからだ。
「やめなくてもいいんじゃ」と、老婆は言った。「いったいわしが何十年女をやっていると思う。小娘の気持ちなぞ手に取るようにわかるわ」
老婆トコは、ベッドから落ちたオナニーの木を拾い上げる。
「おお、いいものを持っておるな。この木で作った性具はなかなか手に入らん。この木には感度を高める成分が含まれておるのじゃ」
 知らなかった。
 知っていたらもっと頻繁に使ったのにと、ヨウシャは少し残念な気持になった。
「まあええ、それより、これを食わんか?」
 老婆が手にしていたのは、林檎ほどの大きさもある大きなイチゴだった。
「禁断のイチゴとも、快楽のイチゴとも呼ばれておる」
トコはイチゴを掴んだ手をヨウシャに差し出した。
「禁断のイチゴ?」
「快楽のイチゴでもあるぞ」
老婆トコは説明をした。
 このイチゴはいわゆる精力剤としての効能がある。持続力も感度も高める。体内のバランスを整え、健康にもいい。体力、精神力がパワーを増す。しかも、一時的なものではない。俗に言う健康食品であり、東洋の漢方薬にも似たもので、体質改善を図る。すなわち、食すれば食するほど効果は高くなり、しかも消えない。
「まあ、食べてみなさい」 
 ヨウシャは勧められるままに巨大イチゴを口にした。
 とろけるような甘さと、渋みが、同時に口に広がる。
「うえ」
 脳の芯を甘さで溶かされそうになる寸前、何の前触れも無く渋さが口に広がり吐き出したくなる。だがどうだ。それを我慢すると次の瞬間、全身を包み込むような幸福感が訪れる。優しく甘美で暖かい液体が細胞の隅々にまで染みわたる。
 母に抱かれているような暖かくて優しい感じと、何時間もクリトリスをマッサージされているようなしびれるような快感で、宙に浮いているみたいだ。しかも、慣れない旅で身体に染みついた疲労が一瞬にして消えた。
「このイチゴには副作用がある」と、老婆トコは言った。「健康にいい成分が含まれているのに、同時に極度の興奮状態にさせる。副作用は一時的なものだが、中毒にかかりやすい」
 適度にするようにと諭すつもりで老婆は付け加えたつもりだったが、もはやヨウシャは中毒状態だ。免疫がないのだ。老婆が持ってきたみっつのイチゴをガブガブガブとアッという間に食べ終えてしまった。

 ヨウシャは老婆からオナニーの木を奪い返し、アソコに突っ込んで激しくピストンさせた。身体が前後に揺れるくらいの激しい突きを子宮口にかます。
「一度にみっつも食べれば急性中毒になる。えらいこっちゃ」
 老婆トコにはヨウシャを止める術はない。こうなったらヨウシャが潰れる前にイカせるしか仕方がない。
 トコは熟練の指さばきでヨウシャの乳首を弄んだ。ヨウシャは断続的に上半身を硬直させ、そして短い痙攣に身を任せた。痙攣がおさまるとまた自らの手でヴァギナ責めにいそしむ。
 隣の部屋でもコリナと月光のセックスが最高潮を迎えようとしているらしく、荒い息づかいだけが届くようになった。
 我慢できずに、ヨウシャは隣の部屋に乱入した。
 そこでヨウシャが見たものは、まさしく妖怪と人間のセックスだった。
 コリナと月光の交わりの体制はシックスナインだった。だが、普通のシックスナインではない。月光の口から這い出した舌は異様に長くて幅が広く、コリナの割れ目全てを覆い隠し、その先端はアナルに差し込まれていた。グロテスクにもその舌には細かな突起があり、おそらくコリナの秘部に接触した側にも同様のデコボコがあるのだろうと思われた。
 その舌が、波打つように、コリナの秘部を愛撫している。
 コリナの顔は悦楽に陶酔していた。ほんのわずかの雑念も入り込む余地がないほどに恍惚に満ちあふれた表情だった。
 その唇は月光のペニスを丁寧に舐め上げていた。
 月光のそのペニスがまた異様である。舌と同じように突起があり、ペニスのそれが舌と違うところは、表面に所狭しと植え付けられた突起そのものが、膨らんだり縮んだりと動きを見せていることだ。
「イチゴの中毒になっちまったよ。はやく何とかしておくれ」
ヨウシャを追いかけてきた老婆トコが二人に向かって叫んだ。
 月光がのっそりと立ち上がった。この時、月光の舌もペニスも異様さを無くし、普通の男に戻っている。
「驚かなくていい。僕は呪いをかけられているだけだ」
呪いであろうと何であろうと、ヨウシャにはどうでも良かった。
 溢れんばかりの性欲と既に身体を支配してしまった快感が、さらなる高まりを求めて、もはや押さえることができない。あのグロテスクだが凄まじいパワーを秘めたペニスを自分の中に突き立てられたいと思った。
「さあ、おいで」
月光は仰向けに寝た。天井に向かって伸びるペニスにヨウシャはゆっくりと腰を沈めた。
 その刹那。
 呪いを掛けられた月光の男器が、再び神秘の動きを見せたのである。突起が膨らんだり縮んだりしながらヨウシャの膣壁を執拗に攻める。やがてそれは膨らんで縮む、というより、伸びたり縮んだり、という表現がふさわしくなってくる。全身を駆け抜ける快楽に身を悶えさせながら、ヨウシャは自ら月光のペニスを締め付けているのがわかった。
 コリナが月光の顔に腰を下ろすと、月光の舌が先ほどのようにコリナの秘部を包み込んだ。その動きはやはり先ほどと同じように極めて淫靡だ。
 コリナとヨウシャは手を伸ばして互いの乳房をいたぶり合う。全身から力が抜けてお互いの上半身を預ける。
 月光を底辺として正三角形状態の3Pだ。
 コリナがヨウシャの背中に手を回してぐいと抱きしめた。ヨウシャもたまらず同じようにする。二人の乳房と乳房、乳首と乳首が触れ合った。月光が刺激を加える度に二人の上半身は微妙にこすれ、それがまた新たな快感を呼ぶ。
 そして、月光のアナル責めが始まった。
 月光の舌先はぐんぐん伸びて、コリナのアナルに深く進入した。同時に舌の突起のひとつが成長して、コリナのヴァギナにも入り込む。ふたつの先端が微妙なハーモニーを奏でながらコリナのお腹の中で暴れ回った。
 コリナだけではない。ヨウシャも同じだ。
 ペニスの根本部分から突起が成長して、まさしくもう一本のペニスのごとく、ヨウシャのアナルにも差し込まれたのだ。都合4本の性器を持つに等しい月光から限りない快感を教授しながら、二人の女は互いに上半身を交錯させ、果てしない悦楽の淵に沈み込んでいったのである。


 ヨウシャが目覚めたのは昼過ぎだった。
 あれから明け方まで月光とのセックスが続き、へとへとだった。
 コリナはすぐに眠ってしまったのだが、イチゴのせいでヨウシャの性欲は尽きなかったのだ。
 何度イカされても湧き出す欲求。
 広くてざらざらした舌に両胸をまとめて擦られながら、ついにヨウシャは三穴責めを受け入れてしまった。細くて長い3本目のペニスが尿道に進入してきたのだ。痛みが快感に変わるのに時間は必要なかった。あるいは、痛みなど最初から無かったかも知れない。それは多分イチゴの効能だろう。
 アナルもヴァギナも尿道もそれぞれに濡れ、それぞれに感じた。
 そして、三カ所同時にイッたときの果てしない快感。
 そうでなくても封印が解けたヨウシャは日々感度が増してくるのだ。そしてやがて、いっぺんの理性もなくなり快楽に身を投じ、自らを滅ぼすことになる。その速度を少しでもセーブしながら、朽ちるまでにアスワンの王子とセックスしなくてはならない。
 なのに、三穴責めで一気にヨウシャの目覚めは深いところに達してしまった。
 間に合うだろうか。
 大きな不安がヨウシャの気を重くした。
 気だけじゃない。身体も随分重く、目が覚めたというのに、起きあがることが出来ない。
 そればかりか、痛みや苦痛が全身を蝕んでいた。
「あ、あぐう」
身体のどこかを動かそうとすると、鋭い痛みが走り、次にその痛みが重くのしかかり、さらに吐き気と頭痛がした。
「苦しいじゃろう」
傍らには老婆トコがいた。
「イチゴの中毒じゃ。禁断症状じゃ。すまなんだのう。まさか、みっつ一気に食べるとは思わなんだ」
詫びと道場が老婆の目に宿る。
「これを食べよ。スプーン一杯のイチゴじゃ。食べれば中毒は進むが、食べねば身体を動かすこともできん。ヘタをすれば痛みと苦痛に耐えかねて身体が死への道を選んでしまう」
 スプーンで口の中に運ばれたイチゴの断片を、ヨウシャはかろうじて飲み込んだ。ヨウシャを支配していた重たいものがスッと消滅する。それどころか、血液が快活に流れ始め、細胞がいきいきと蘇り、何でも出来そうな気分になってくる。下半身もむらむらしてきた。
「これから月光と二人で旅に出よ」と、老婆は言った。

 邪悪なもの全てを浄化する聖水がノモキスのダンジョンにある。
 その地下迷宮の一番深いところに聖なる一枚岩があり、割れ目など全くないのに、聖水がしみ出しているという。岩を舐めるようにして聖水を舌に触れさせる。ほんの少しでいい。それだけで効果があるのだ。
 老婆トコは二人を前に、ノモキスの聖水について語った。
「この水は、ヨウシャの中毒症状を解毒し、また月光の呪いをも解除するのじゃ」
 ダンジョンの入り口はノモキス草原のどこかにある。草原の上でセックスをすると、入り口が開く。入り口の場所は一定ではなく、正しいセックスをすれば必ずその二人の目に付くところに開くという。
「た、正しいセックスとは?」と、月光。
「愛し合う二人が、言葉や気持だけでなく、身体でも結ばれたいと願い行う純粋なセックスじゃよ」
 ヨウシャと月光は顔を見合わせた。二人とも同じ事を考えていた。
 私達は愛し合ってなんかいない。ただ、セックスによる快楽を求めているに過ぎない、と。
「森を抜ければそこは砂漠じゃ。砂漠の中を街道は続いておる。街道を歩くこと三日。景色が変わる。辺り一面みどりの草原になる。色とりどりの花が咲いておる。小さな池がいっぱいある。池の表面も植物で覆われている。池と池は水路でつながっている。水路は、地上に出たり地下に潜ったりしている。湿原とも呼ばれておる。着けばすぐにわかる。それまでの三日間、お主らは協力し合って旅をし、愛し合うようにならねばならん」
 ヨウシャと月光が愛とは無縁のセックスに溺れていることを老婆はとっくに見抜いていた。
「月光、そなたにクヨンキの樹皮を裂いて編んだ紐を授けよう。これを性器に巻き付けておくのじゃ」
 老婆に言われるままに月光はペニスを露出させた。その根元に紐を巻き、結ぶ。
「そなたの呪いはこれで封印された。ただし、紐が切れたら効力はなくなる。紐が無事な間は普通のセックスが出来る」
 月光の男器から放つ妖気が消えた。
「ヨウシャ、お主にはイチゴをやろう。禁断症状が現れたら、スプーン一杯分だけ食べるのじゃ」
「はい」
「そうじゃ、イチゴも月光、そなたが持っておれ。ヨウシャの苦しみが頂点に達したときだけ与えるのじゃ。見極めるのじゃぞ。ヨウシャが欲しがってもやたらに与えてはならん。いったん中毒にかかったものは、ホンの少しでも口にすれば症状を進行させるからな。ギリギリで与えるのじゃ。だが、もはや何も食べられなくなるほど衰弱した後では与えようにも与えられないから、注意する事じゃ」
「セックスはしてはいけないの?」と、ヨウシャが質問した。
「セックスはしてもいい。だが、快楽を追求するためだけに繰り返しセックスしてはならん。一日一回にしておくのがよかろう。クヨンキの紐はそれほど強くない。快楽に溺れて何度も何度も激しく交われば、簡単に紐は消えてしまう。そうすれば、月光の封印は解け、呪いの元にひたすら激しくヨウシャを責め立てるじゃろう。さすればヨウシャも我慢できなくなる。違うか?」
ヨウシャは頷いた。
「明日、夜明けと共に旅立つがいい。今夜はもう眠れ。知っておるぞ。既に今日、お前たちは3回している。これ以上はならん」



 

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