魔性の女と(1)  by ケンチ その1





 




 これは携帯のない20年前の話です。

 人事異動で、私より5歳年上の52歳の女性が職場へ来た。顔は普通だが、体型がよい。その後姿を見て一目ぼれしてしまった。
 身長は162、3センチ、体重60キロ前後の小太りで、腰が大きい。その大きなお尻に魅力を感じた。
 後で分かったことだが、父親を早く亡くして、弟と、妹を結婚させた後、母親を養うために結婚をあきらめたようだ。

 私は営業のため外出していることが多いが、事務所に帰ってきた時、同僚の女の子に間違いを指摘している厳しい態度をしばしば見かけたので、気の強い、仕事のできる人だと思った。
 ある時、営業所の飲み会が終わって帰る時、家が同じ電車の沿線だったので、最後は皆と別れて、連れだって駅へ向かった。電車はよく混んでいて、つり革にぶら下がって仕事の話をしていたが、揺れを利用して、体は色っぽく語りかけてきた。

 彼女の降りる駅に着いたので、「僕もここで買い物をしていく」と言って一緒に降りた。
 腕で誘うように触れながら改札を出ると、ラブホテルのある方向へ向かった。

 彼女の体はすばらしかった。終わって帰る道すがら、「あんたとは、相性がええみたいやね」と囁いた。別れる時「また誘ってね」と嬉しそうな顔で言った。大きなすばらしい買物ができて嬉しかった。帰宅したのは12時近かったが、今晩は宴会で遅くなると言って置いたので、妻は寝ていた。

 翌朝出勤して彼女の顔を見ると心が躍ったが、彼女はいつもと変わらない態度だった。職場では絶対に表さなかったが、ベッドでは別人になった。彼女は、今までこんな経験をしたことはないと言った。
 それまでの男性遍歴では発見できなかった自分の体内の新しい鉱脈を掘り当てたようだ。私は自惚れたが、その自信は間もなく崩れ去った。

 ゆっくりした前戯から始まり、やがて狂乱状態となる。最後は、体の内から絞り出すような声で「あっ!」と叫ぶと、身を硬直させ、白眼をむいて果てた。
 私は、ピストン運動をする機械にすぎない。
 彼女は、私を使って自分で坑道をずんずん堀り進み、貴重な鉱石を発見して歓喜の声を挙げた。飽きると、また新たな坑道を進み歓喜の声を挙げる。尽きることがない。次々と別の坑道を進み、新らしい鉱石を発見しては狂喜する。

 SMの世界を私は知らないが、それと似ているように思う。どこまでも奥の深い、果てのない暗黒の底知れない恐ろしさを感じた。
 常識的なことで満足する私にはそれは恐怖であり、それ以上進むことを躊躇した。今のうちに引き返さないと命取りになるように感じた。

 しかし、彼女は離さなかった。
 新発見に狂喜し、共に進むことを命じた。
 表面は優しく、おだてたり、甘い言葉で誘ったり、それで聞かなければ、熟れた体で誘惑して、言うことを聞くまで執拗に迫ってきた。それに辟易して、「私の家庭を壊す気か」と、別れることをうながしても、「回数を減らすから」と懇願して離そうとしない。承諾しないと妻にばらすと脅す。

 そうこうしているうちに、私が転勤することになった。
 それを契機に交際を断つと、最後に一回だけと哀願され会った。
「もうこれでお終いやねぇ」と未練たらしく言うのを聞いて、思わず「俺よりええ人を紹介しょうか、何回でもいかしてくれるで」と言うと、「私をそんな風に思ってたん? あんた、そんな人やったん!」怒って足早に立去って行った。
「ごめん」去り行く姿に声を投げかけたが、許してはもらえなかった。

 それは胸にグサリと突き刺さった。自分がいかに独善的で、偽善者であるかを思い知らされ、すまない気持ちでいっぱいになった。それで完全に別れることができたが、苦い思いと、悔恨だけが残った。
 しかし、すぐに私の代わりを見つけたようだったので少し安心した。やはり私でなくても、持続力のあるピストンロボットさえあれば、自分で見つけて楽しめるようである。

 彼女の体中には、開発者の私の名前が刻まれているだろうが、もうそれは古いものであり、今の進化したものに劣っているのは事実で、もう必要としない。私が捨てられた理由もそこにある。
 今の状態が行詰まったときには、また私を必要とするかもしれないが、期待に応えられる能力があるかどうかも分からない。としたら、もう彼女を抱くことはないだろう、と思うと疎ましかった彼女が、急に恋しくなってきた。
「覆水盆に返らず」で、見事彼女に仇を討たれた。
(メールによる体験告白より 2011年2月3日)

 
 いやあ、どうでしょうかねえ。彼女にとってのアナタがただのピストンマシーンなんかでは無かったとしても、本人がそう感じてしまったんだから、それはしょうがないことではないでしょうか? 彼女はアナタのことを「そんな風に思ってたの?」と責めたそうですが、男女の仲はどちらか一方だけの責任では決してないと思うのです。アナタにそう思わせてしまった彼女にも責任はあるはず。そう私は思いますよ。

 
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