遥の私的日記
03年2月


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2003/02/01
 目を覚ましたら、眼鏡姿の達也はすでに起きていてベッドに書類とパソコンを広げて仕事をしていた。まだ7時なのに。
「仕事あるなら、私家に帰るよ」って言ったら、「遥を帰さないように、今仕事してんですよ」って言ってくれた。
 5時に起きて仕事を片してたんだって。
 そう言われるとパソコン画面を眺める達也の顔もイライラしないで見ていられる。
 ゲンキンなものだなあ。達也が私の扱いに慣れているからかも。

 それからすぐに仕事は終って、私の横にもぐりこんでくる達也が可愛くて嬉しくて口でしてあげた。
 昨日はあれからご飯を食べてすぐに寝てしまったから。
 今日はいっぱいできる。

 私は達也しか男の人を知らない。ベッドの中のことは全部達也が教えてくれた。だから私は達也のいいようにしかできない。
 こんなこと、他の人にするなんて死ぬほど恥ずかしい。
 でも達也が言うなら、どんな恥ずかしいこともしてあげたい。
 私の口の中でだんだん熱くなって大きくなるモノを焦らすようにゆっくり舐めあげる。
 裏筋を唾液でべとべとにしながら舐めると、達也の声が漏れる。
 袋を手で揉みほぐしながら、痛くないように少し歯をたてると達也が我慢しているのが分かってくる。
「はる…か…」
 かすれた声に私はゾクゾクする。

 上目使いで彼の切なげな顔を見て、それだけで私も濡れてくる。大きくビクンッてなった後、出てきた精液も飲んだ。
 その度に、達也のじゃなかったらこんなモノ飲めないと思う。

 それから、本当にいっぱいした(笑)
 達也が私のキャミソールを捲り上げて胸を吸いながらパンツと下着を剥ぎ取る。
 長い指が太ももからゆっくり上へ上がってくのを感じて焦らすようにまわりを撫でていくだけで鳥肌が立つくらい感じる。
 さっきのフェラだけで私はもうトロトロになってる。
「ちょぅ…だい…」
 達也とセックスすると、必ず目が潤む。
 焦らされるもどかしさと、気絶しそうな気持ちよさと、愛しさで涙が出る。達也は私の涙を舌でぬぐう。
 どうしようもなく苦しくなって達也にしがみ付く。
「おねがい…」
 右膝を押さえつけるようにして達也が入ってくる。
 私の声とクチュクチュいやらしい音だけが聞こえる。達也は最中にあんまり喋らない。ときどき私の名前を耳元に囁くだけ。
 入れてからは焦らしたりはしない。私の様子を見てゆっくり動かして、少しずつ激しくなっていく。
「いっ…ちゃう.…」
 私が言うと達也は私を抱き寄せる。そして深く、深く私の中に入ってくる。私が果てると同時に達也も尽きる。
 それから、私が「これ以上したらこわれちゃう…」って言うまで、達也は私を求めてきた。

 終った後、達也は腕をまわして私を捕らえて離そうとしない。シーツも髪の毛もクシャクシャなのに、そのまま、彼が眠りに落ちるまで私は動けない。
 そっとベッドから抜け出せたころには、もうお昼になろうとしていた。


2003/02/02
 今日は待ちに待った日曜日。東京はすごく寒かったけど、私は遠足の朝みたいに早く目が覚めた。ヒーターの電源を入れてお湯を沸かして、達也が起きるのを待った。
 今日は達也の新しい眼鏡ができあがる日なのです。
 達也は高校生の頃からずっと眼鏡をかけていて、仕事の時はコンタクトなのだけどふたりでいるときにはワガママを言って眼鏡をかけてもらってる。
 私は眼鏡を素敵にかけている人が男女問わず大好き。
 残念ながら私は視力がいいので眼鏡はかけていないけれどでもはたちの誕生日に達也に買って貰った、白山のべっこうセルフレームの伊達眼鏡を持ってる。
 友達にははたちの記念に眼鏡!? って呆れられたけど、いいの。私はアクセサリーなんかより眼鏡のほうが好き。

 達也が新しい眼鏡を作る、と言ったとき、絶対に某有名店のにしよう! と言い張ったのは私。
 そのお店にはとっても入りにくくて、誰かが眼鏡を作るときに一緒に付いて行こうってずっと思ってたから。
 1週間前にお店で選んだときは、本当に大変だった。
 午前中にお店について選び始めてすぐ混乱して、「冷静になってきます」と一旦お茶をしに出るも、私はどれが本当に良い眼鏡か訳が分からなくなって、再び3時間かけてようやく3つの候補に絞った。
 もうあとは達也の好みだよ、と告げたら「100%遥の好みだろ」と言って達也はその3つを全部買ったのです。
 店員さんは笑いながら、「彼氏さんは随分とあっさりしてらっしゃる」と言ったけど、私は本当に嬉しくてひとつも自分のものにはならないのに、達也にアリガトウと言った。

 1週間前に接客してくれた店員さんが今日も対応してくれてひとつひとつ丁寧にかけごこちを調べてつるを調整してくれる。
 本当にここの眼鏡は贅沢品だなって思った。
 そして3つともとっても達也に似合っていた。
 店員さんもとっても誉めてくださって、私に「うちで働かない?」と冗談で言ったけどこんな優柔不断な店員、いたら絶対に迷惑かけますって(笑)

 今日手元に届いた眼鏡は、チタンフレームが2本とセルフレームが1本。
 せっかく良い眼鏡買ったんだから、コンタクトはしばらくやめるよ、と達也が言った。わーい。
 オフ専用にしよう、と言ったセルフレームをかけて店を出ると、渋谷の空は曇っていて凍えるほど寒かった。
 達也は私の右手を取って自分のコートのポケットに入れてくれた。

 肩越しに見上げた横顔に眼鏡が本当に似合っていて、どうしても言いたくなった。
「その眼鏡、私のいないとこでかけないでね」
 達也は笑ってハイハイっていうみたいに頷いた。

 家に帰ってから、ううん、本当は帰る途中から達也にキスしたくてたまらなかった。
 多分達也は気付いていたと思う。
 私は、眼鏡をかけた達也に欲情した。
 ソファで新聞を読んでいた達也の傍に寄って、セーターの肘の辺りを引っ張ると達也は新聞を畳み、私を後ろから抱きかかえるみたいにしてラグに座る。
 私は達也のほうを向いて前髪をかきあげておでこにキスをした。
 頬、唇、耳たぶ、眼鏡をかけたままだとキスはやりづらい。
 けど私はそのことにすら興奮する。このまま達也に何をされてもいいって、本気で思ってしまう。
 眼鏡をゆっくり外してちゃんとキスをする。
 達也は私を挑発する。舌で、指で、名前を囁く声で。
 つきあってもう8年になるのに、達也が眼鏡ひとつ変えたくらいで私は簡単にふしだらになってしまえる。


2003/02/03
 学生バンザイ。
 大学生は長い春休みに入ったばっかりです。
 私の学校は家からとても遠いので、1限を取っている日だと7時には電車に乗らなきゃならない。すっかり早起きが習慣になってはいるけれど、誘惑には勝てないし学校もないから勝つ必要もなくて、ズルズル…と眠りに落ちようとしたら…
「はーるかー、ダラダラしないでさっさと起きて!」
 ママに叩き起こされました。

 えー、恥ずかしい話ですが、日曜日のエッチで腰と肩甲骨の辺りが痛いです。待ちきれなくて、フローリングに倒れこんでそのままやっちゃったから。
 終った後、達也が笑いながら「さかりついてんなぁ…」って言ったけど、言われるまで自分がかなり夢中になってたことに気付かなかった。
 家まで車で送ってもらってる時に「遥ってほんとに眼鏡と俺どっちが好きなの?」って聞かれたときには思わず大笑いしちゃった。
 だって、モノと人だよ?! そんな真剣な顔なんてしないでよぅ。
 っていうか、眼鏡かけてああいうこと聞くのって反則だ。
 正直、眼鏡をかけてる達也が好き。あ、でもエッチの時は邪魔だなって思う。
 結局は達也のほうがいいってことなのかな、眼鏡より。なんか変な結論だけど。

 ううぅー…、腰が…腰が痛い…。
 ママに言うわけにもいかなくて、お買い物に付き合わされるし…。
 なんでこんな時に10キロの米なんか買うかな…、ママ…。
 明日は達也とお昼を食べに行く約束をしているけど大丈夫かなあ…。


2003/02/04
 まだちょっと腰が痛かったけど、彼とお昼を食べに行くために出掛けた。
 早めに銀座について欲しい靴の下見をしたり、マフラーを新調しようかなあなんて考えていたらチョコレートショップを何軒も見つけてしまった。
 一見宝石屋さんみたいな内装のお店とかウィンドウに飾られたチョコに可愛らしい絵が描かれていたりして入ってみたいと思ったけれど時間が迫っていたのでやめておいた。

 達也は約束通り、眼鏡をかけて山野楽器にいた。
 遠くから見ても、達也は絶対に格好良いサラリーマンだ。
 A.P.C.のコートと私がクリスマスにあげたチェックのマフラー。
 嬉しくなって達也の傍にそっと近寄った。
「ステキな眼鏡ですね、お兄さん」
「見立てがいいもんで」
 ノロケですみません。

 いつものお店でご飯を食べた後、さっきのチョコレートショップに行く。
 店員さんが白手袋をしてチョコを扱うのにビックリ! 私も女の子ですから、チョコレート大好きです。3000円の箱を買って…もらいました。
「すいません、これを。僕が払います」ってワーイなんて思ってハッとした。

 もうすぐバレンタインじゃないですか!
 そんな時に男にチョコ買ってもらうって…。いいのか…。いい…んだろうか…。
 達也は甘い物があんまり食べられないので、毎年チョコはあげていないんだけどこういうお店で甘くないチョコを探してみようかな…。
 原点に戻るってことで。
 そんな私の密かな決意を知るよしもなく、達也は会社に戻っていった。
 これで週末まで会えない。チョコレートのお礼においしいご飯を作って待っていてあげようっと。


2003/02/07
 教授に頼まれて仕方なく、入試助手のバイトをしています。
 今日が初日で、もー、大変だった…。私の学校は一般大学ではないので、筆記試験だけじゃなくて実技もあるのです。
 今日はデッサンの試験だったんだけど、受験生は本当にワガママ! 認められてない道具バシバシ使うし、しちゃいけない行為もちゃっかりやるし、絵の確認のために勝手に席離れるし。6時間近く教室に拘束されるから、ストレスもたまってるんだろうけど…。注意されたらすぐ止めてくれよぅ(泣)とか思いつつ、5時近くまでお仕事。
 達也にそのイライラをぶつけたメールを送ったら、返事が来なくてますますイライラ。仕方ないけど。
 電車は丁度時間が悪くて激混みだし、ご飯作る気にもなれなくて、買い物もせずに達也の家に着いたら「なにコレ!」と声をあげたほど物が散乱していた。
 ソファと机の上に、新聞とネクタイと雑誌と煙草の空き箱。脱いだシャツも靴下も床に投げっぱなし。
 もうやだ…って呟きつつも手はしぶしぶ片付けを始める、習慣になっちゃってるよ…。
 主婦か? 私主婦か?

 ダラダラ掃除の途中に達也が帰ってきた。「ネクタイもシャツもちゃんと籠に入れて!」おかえりの代わりに文句をぶつける。達也は謝っておフロの掃除をしてくれた。
 覗きがてらご飯を作ってないことを言うと、「んじゃ食べに行こう」。
 知らないうちに返信のメールが届いていて、「お疲れ様。今日は急いで帰るから」。

 全然関係ない達也にイライラをぶつけたことを大後悔。バイトのイライラは自分で解決しなきゃならないことだったんだ。
 ホント、嫌になる。思ったことすぐ口にして、いつも後悔してるのに…。
 おフロ場から戻ってきた達也が「なに食べに行く?」って、普段通りに聞いてきてくれて良かった。私もご飯を作らなかったことを謝れた。

 なんとなく先週はエッチが多かった気がするけど(あ、眼鏡か…)、普段は土日どっちかしかしないことがほとんど。明日用事があって私が早く起きなきゃならないから、今日はエッチなし、です。


2003/02/08
 学校の男友達とお買い物。彼は自分の彼女の誕生日プレゼントを、私は達也のバレンタインのプレゼントをそれぞれ見立ててあげる、ということで。
 1年の頃から仲良しの人で、ぶっちゃけ告白されたりしたこともあるんですが、今はもう彼にも相手ありなので本当に友達同士。
 彼女のこともよく知っているので、tsumoriの可愛いカットソーを雰囲気に合うってことでセレクト。達也とは2、3回会ったことのある彼に「サラリーマンって何が欲しいんだろ」と言われても「なんだろうねえ…」と言うしかない。
 達也は欲しい物を買うだけのお金を稼いでいるし、あらかたのものは8年間のうちにあげた気がする…。
 ネクタイも今までに3回はあげたし、趣味が違うから本やCDはあげにくいし。

 洋服を見てもこれっていうのがなくて困っていたら、インテリアのお店でデロンギのオイルヒーターを見つけた。5万円もする。
 でも寝室に暖房器具がないからずっと欲しいねって言ってたし…。
 8畳の部屋も大丈夫ですか? って店員さんに聞いた時点で心は決まっていた。達也に電話して「バレンタインにプレゼントをあげたいんだけど、かなり予算オーバーだから達也にも出してもらってもいい?」と聞いたら大笑いされた。
 でも「いいよ」って言ってもらえたから、それを14日に配送してもらえるように手配した。

 友達は「遥、奥さんみたいな買い物してんなあ…」なんて呆れてた。
 自分でも、私は恋人じゃなくて奥さんみたいだなって思うことはよくある。でもそれはそんなに嫌なものじゃない。
 付き合い始めた頃、私は14歳で早く大人になりたいって思ってたから。
 なにをするにも私が「してもらう」ばっかりで、達也に「してあげる」ことが何一つないような気がしてならなかった。達也に言ったことはなかったけれど、ずっとずっと、対等になりたいって思ってた。
 友達と別れてマンションに帰る電車の中、その気持ちをぼんやり思い出した。
 こんなふうに週末を一緒に過ごせるようになったのは、私が大学生になって達也がパパを説得してくれてから。初めて達也の家に泊まる時にはすごく緊張した。達也は部屋をきれいに掃除して私を待っててくれた。
 それまで夜8時までには必ず家に送ってもらっていたから、7時半に達也が車の鍵を持たないことが嬉しかった。

 ベッドの中で、達也をたっちゃんと呼んでみた。達也は私の顔を見て、「なに、それ」と笑った。
 「前はたっちゃんって呼んでたじゃない」と言ったら、なにも答えずに唇をふさいだ。
 そうだ、いつから達也って呼ぶようになったんだっけ…。
 達也の動きに身を委ねるのは、頭が真っ白になるくらい気持ちが良い。すぐに何も考えられなくなって、口から喘ぎ声がもれる。
 胸からおへそに舌が下りてくると、くすぐったくて笑ってしまう。最中の私はすごく単純で分かりやすい。もっともっと気持ちよくしてって、それだけのために動いて声をあげる。
 名前を呼んで体を掴みたいと思うのは、達也を見失いそうになるから。

 エッチが痛いものじゃなくなって気持ちよくなりだした頃は、自分がおかしくなりそうで恐かった。
 気がついたら涙が出ている。体の熱が上がっていくのが分かる。胸がつまって上手く言葉が出てこない時みたいに、苦しくてたまらないけどずっとこのままでいたいとも思う。

「さっき、たっちゃんって呼んだときさぁ…」私の髪に顔をうずめながら、達也が言った。「子どもの頃の遥、思い出した」
 わざと「たーっちゃん」って呼んでみる。
 達也は身を起こして私にキスをした。
「あの子にこんなことしてるって思って、すっごい興奮した」って笑いながら。…返す言葉がない、とはまさにこのことだと思った。


2003/02/09
 夜中にふと目が覚めて、雨の音がしていると思った。朝起きたらもう雨は上がっていて、達也と一緒に出かけた。
 ビデオを借りて本を買った。
 観るものがあって読むものがある。隣に好きな人がいる。なんて贅沢。(恋人は昨晩ちょっと理解できない嗜好を吐露なさいましたが)
 お茶を飲んで買い物をして、クリーニングでスーツを受け取る。達也と一緒にいる時に、私は自分の鞄以外の荷物を持たない。最初は周りから我侭な女と思われそうで嫌だったけど、達也は何でもないことのように荷物を持ってくれている。達也に周りを気にするほうが野暮だ、と言われてからはそのことを素直に喜ぶようにした。
 重い荷物は嫌い、って言うようになった。

 私は達也の骨格が好きだ。眼鏡の次に。
 背が高くて背筋が伸びていて、くるぶしとか肩甲骨とかの骨がでっぱってるところが好き。コーヒーカップを持つ手の甲に血管と筋が浮かび上がるのを見ると、思わずぎゅってしたくなる。
 友達にも骨格フェチが多いのは、大学柄仕方のないことなのかな。
 血管が浮くのは煙草を吸う人の手だからと教わったときにはちょっとショックだった。

 エントランスでエレベーターを待っていたとき、達也の手が腰にまわってきてキスされた。…ああ、そうだ、キスする時の首筋も好き。
 達也はさっと姿勢を戻して、ドアが開く頃には何でもない顔になる。
 降りてきた人に挨拶をして、エレベーターに乗り込むとまたキスをした。鞄を肩にかけて達也の首に手をまわす。セルフレームの眼鏡はじゃまだったから外した。


2003/02/14
 プレゼントのオイルヒーターが届くので、お昼から達也の家に行った。出掛けにママが「達也君に渡して」と袋を手渡した。
「お世話になってますって伝えてね」って言われて、なんだかお歳暮みたいなチョコレートだなって思った。マンションに向かう道すがら、酒屋さんオススメのワインを買った。

 オイルヒーターが届いてから、なんだか急に眠たくなってソファでこてっと寝てしまい、目を覚ましたらコートがかけられていた。厚地のコートはちょっと重くて、煙草の匂いがする。足までは届かないので体を丸めて包まろうとしたら、達也が毛布を持ってきた。
 私は眠たがりでどこででも寝る。起こしてもなかなか起きないから、達也もそれを熟知していて眠らせてくれる。
 けど今日はこのまま眠るわけにはいかない。毛布に包まって起きあがり、ママからのチョコレートを渡した。

 達也は会社で貰ったチョコレートを私にくれた。毎年のことだ。達也の会社は女性社員が多い上に、いろんな会社とのやりとりをしなくてはならない部署で、しかも圧倒的に女性率の高いところと付き合いがある。
 チョコレートひとつで勝手な詮索をするのはみっともないからしないけど、恋人が他の人からチョコを貰うのはあんまり気持ちのいいものじゃない。
 だって、恋人がいてもアプローチしていいですよねって言ってるみたいで。
 だから私はバレンタインが近づくとちょっと憂鬱になる。数えたら13個(!)も貰っていて、達也にそのことを告げると「義理だよ、義理」なんて言っていたけれど、どうかな。
 そういうのもあるけど、でも義理にゴディバとかノイハウスとか贈るかな。これはきっと恋人の欲目だろうって分かってるけど、達也の周りにいる私の知らない女の人のことを嫌な気持ちで考える。

 ご飯を食べた後、ワインをあげた。ママからのチョコレートと一緒に飲むとすごく美味しかった。
 達也はひとつだけ口にしたけど、「やっぱり甘い」と言ってそれ以上は食べなかった。
 会社で貰ったチョコレートも食べるのは私。くだらないけど、でもそうでも思わないとやりきれない。

 隣に座る達也に抱き付く。「酔っ払った?」なんて聞いてくるから首を振る。違うよ、やきもち焼いてるんだよ、気付けよ、ばか。
「眠いの? まだ9時なんですけど」って言って、ワインを注いだグラスを持って寝室まで連れてってくれる。部屋に入ってヒーターを見つけると、「あ、これが見せたかったんだ」なんてまた的外れなことを言う。
 返事をせずにベッドにもぐる。枕に顔をうずめて強引に目をつぶると、達也はベッドの端に座って「本当に寝るの?」って言った。
 それでも返事をしなかったら「おやすみ」と言って出ていった。ワインで酔っ払ってたから本当に眠ってしまった。


2003/02/15
 目が覚めたら5時だった。お酒が残っていて頭がくらくらした。
 達也はすやすやと眠っていたので、起こさないようにシャワーを浴びる。頭が全然働かなくて、ソファでブランケットに包まってぼんやりしていたら、達也が起きてきた。
 達也は起きたばっかりでもしゃきしゃき動ける。高血圧なんだと思う。
 新聞を取ってきて読んでいる達也にぴったりくっつく。髪がまだ少し濡れていて、シャンプーの匂いがした。ずるずると倒れて達也の膝に頭を乗せてまたうとうとした。大きな手が私の髪を撫でてくれる。私にはこの手がある。そう思いながら眠った。

 今度は11時だった。いくらなんでも眠りすぎだと思った。ソファで寝ていたはずなのに、起きたらベッドにいた。
 達也が抱きかかえたんじゃなくて、多分自分の足でここまで来たんだと思う。記憶はないけど、こういうことは何回もあったから。
 その度に「自分でベッドに行ったじゃない」と達也に呆れられた。「覚えてないの?」って。
 今度はわりとはっきり目が覚めたので(それだけ寝れば、そうだろうけど)ソファで仕事をしていた達也にコーヒーを入れて、ご飯を作ろうとしたらシンクにはもうお皿があって「ご飯先に食べたよ」という声を後ろに聞いて、作るのをやめる。
 冷蔵庫の前で野菜ジュースを飲んでいたら、達也が私を呼んだ。

「遥、昨日からおかしいよ」パソコンの電源をおとしながら、達也が言った。
「ちょっと寝すぎかな…」って隣に座りながら答えたら「それもだけど」と遮られた。
「それもだけど、機嫌が悪いでしょう」言いながら私の手を握る。
 達也がちょっと改まった言葉使いになる時は、ちゃんと話をしないといけない。

「機嫌が悪かったのは、達也が他の人からチョコレートをもらってきたから」
 口にだしてみると、本当にささいな事ですねたりして、自分がみじめになる。
「…それだけ?」達也が顔を覗きこむ。
「それだけ」それだけだ。
 でも、毎年本当はチョコをもらってくるのが嫌だった。たかがチョコレートじゃない、と言われたらどうしようもないけど。8年一緒にいても、こういうことで私は不安になる。
 達也は溜め息をついて、それからキスをした。それがあんまり優しかったから、私はぼろぼろ泣いた。
 一度涙が出てくると止まらなかった。
 阿呆みたいに寝るわ、突然泣き出すわ、こんな面倒な女は嫌だろうなと思ったらちょっと笑えた。私はいつでもなりたい自分から遠く離れたところにいる。
 達也は髪を撫でながら、私が泣きやむのを待っていてくれた。
「言わなくても分かると思うけど、俺は遥が好きだから」

 長い沈黙の後にさらりとこう言える達也はすごい。やっぱり大人だ。私の扱いかたを心得てる。言葉の真剣さに私が苦笑いするのを分かってる。
 達也は照れ隠し(だと思う)にキスをしてきた。
 達也の肩に頭を乗せて首に鼻をこすりあてる。猫みたい、っていつも言われるけど猫を飼ったことがないから分からない。何も食べてないし、泣くと体力を消費するからまたしても眠たくなった。どうしてこんなに眠たいんだろう…。私は常に体温が低いので、達也にくっついていると温かくて眠たくなるのかもしれない。
 達也の手は暖かい。私の左手の指をさすっている様子を見ながら、また眠った…んだと思う、記憶がない。

 ぼんやり目を覚ました時、またしても私はベッドのなかで、でも隣には達也がいた。上半身を起こして本を読んでいた。
 体を起こして達也の眼鏡を外して、キスをした。生理前で起きたばかりだから体が疼いてしょうがなかった。
 本を取り上げて達也の膝にまたがる。されるがままの達也の両手が私の腰にまわされた。
 顔をじっと見る。まつげが短い。奥二重の目。
 高い鼻。薄いくちびる。
 チュッチュッていっぱいキスをした。
 そのすぐ後、背中がぞわぞわして力が抜ける。体がくったりして、力が出ない。達也の胸に体を預けたまま動けない。
「体動けない」
 そう言うと達也がさも当然だと言いたげに「そりゃそうだろ、ろくに食べてないんだから」と言って笑った。

 達也の顔を見なくても、達也が笑ったのが分かった。
「遥は不安なことがある時、よく寝るんだよ」
 達也に言われて初めて知った。頭がうまく働かなくて、ただそうなのかな、とだけ思った。
「こんなに一緒にいるのに、不安?」
 達也が私の背中をゆっくりさする。達也の胸に耳をあてていると、いつもと違う声に聞こえる。どう答えたものか、と黙ってしまった。
 不安じゃないといったら嘘になる。達也は私より仕事を優先するから。私の知らない女の人と仕事をしているから。時々絶望的に鈍いから。
 でもこうやって私を心配してくれてくっついていることで、その時の不安は消せる。一緒にいると安心する。でも総合的にはちょっと不安。

「遥」達也の声に合わせて少し震動が伝わってくる。
「うちにおいで。毎日顔見て一緒にご飯食べて、俺が帰ってくるの待ってて」達也が言った。
「…パパが悲しむよ…」顔を上げると達也が笑った。
「子離れさせなきゃ。そろそろ俺のところに来てもいいんじゃない?」達也は私をじっと見た。

「こうやって来てるじゃない」
 恥ずかしくて話をそらすと「親父さんは俺がちゃんと説得する。本当は今すぐにだって嫁さんにしたいって思ってんだから」そう言ってくちびるを寄せた。
 達也は結婚をあんまり口にしない。私にとって、まだそれがプレッシャーでしかないと分かっているから。黙って達也のキスに応えた。

 それからご飯を食べに出かけて(歩くのが嫌で嫌で、車で出かけたらつい30分もかかるお店に行ってしまった。空腹でクタクタになった)、空腹が過ぎてあんまり食べられなかった。
 でも元気にはなったので、そのまま新宿デートになった。
 なんとなく見ていたお店の指輪のデザインが可愛くて、店員さんと話し込んでしまった。アクセサリーはつけてて邪魔になるからほとんど持っていないんだけど、最近、ピンクゴールドとかイエローゴールドの小さい物を見るのがすごく好き。
 それを言うと、店員さんが新作だというピンクゴールドの華奢な指輪を見せてくれた。
 すごく細いのにバラと蔦の細工がしてあって、とっても可愛い。試しにつけてみたら悪目立ちしなくて、でもすごくしっくりくる。
 予定は全然なかったけど買っちゃおうかな、と思ったら達也が「これそのままつけて帰ります」って買ってくれた。
 何の記念でもないのに買ってもらうのは悪いと思って断ったけど、いいから、と言ってさっさと会計を済ませてしまった。
 お店を出たあと、達也が私の左手を握って「うちにおいで」と、もう一度言った。「これは同棲指輪だから」と。指輪を貰ったのは初めてじゃない。でもこんなふいに、特別な指輪を貰ったのは初めて。

 達也の家に住む。どうしよう。すごく嬉しいよ。でも、パパは寂しがる。私には妹がいて、彼女は獣医さんになるために遠くの大学に行っている。パパはその時、妹の夢が叶うからと言って喜んでいたけど、本当はすごく寂しかったはず。
 だから週末だけ達也の家に行くことをパパが認めてくれた時は、自分のことを親不孝だと思わずにはいられなかった。
 平日はできるだけパパと一緒にご飯を食べて、いろんな話をするようにしてる。でも、達也と一緒に住むってことは、その時間もなくなっちゃうってことだ。

 達也にキスされて服を脱がされてる。
 娘がこんなことをされてるって思うのは、どんな気持ちなんだろう。達也のシャツのボタンを外して、押し倒して首筋にキスをしてる娘を、パパはどう思うのかな。
 達也の顔に私の髪の毛がかかった。
 くすぐったいのか首を振ってそれを払い落とす。髪の毛を小さな束にして達也の頬をなでた。達也の腕にとり肌がたった。そのまま喉仏を通って下に降りる。胸、おなか、おへそ、髪の毛を筆みたいに這わせた。その間中笑いが止まらなかった。
 私はやっぱりリードが下手だ。

「して…」
 多分私は情けない顔をしてたと思う。
 達也は私の頭を抱いてベッドに横たえると、代わりに自分の体を起こした。
 耳たぶをあま噛みされるだけで声が出る。首筋から鎖骨につーっと舌が下りる。達也の手が胸を覆う。達也の髪に手を入れる。そのまま口に胸を含まれて、舌で乳首を転がされたり歯を立てられる。私の手にも力が入る。
 達也が顔を上げて「いつもより張ってる。前だから?」って聞いてきたけど、気持ち良くて頷くしかできない。
 足を広げられて指と舌で私を熱くする。背中に力が入って思わず体を反らす。

「もっと声出して…」
 達也の声がした気がする。でも止めようとしても声は漏れる。
「どうして欲しいか言って…」
 達也が耳元で囁く。どうして今日はそんなにしゃべるの? 私の声を聞きたがるの? とにかく夢中で声をあげて、「ちょうだい…」って言った。
 入ってきた後も、いつもより動きが激しかった。うまく息ができなくなるくらい、達也の動きを受けとめるのがやっと。
 達也の背中に爪をたてる。
 いきそうになると、「はるか…、まだだよ…」って動くのを止める。達也の胸におでこを押しつけて、息をする。
 きっと顔も赤い。汗もかいてる。達也は私がビクンとなるたびに、いじわるをする。
 なんで? なんで?
 ちょうだい、もっと、もっと…、ね…。

 涙目で達也を見るとくちびるを塞いでくる。
 頭が真っ白になってくる、このままじゃおかしくなる…。達也の首に手をまわしてつかまえる。
「おねが…、ちょうだい…」
 達也の頬に汗が流れる。ようやく私の動きに合わせてくれる。「たつや…」しがみついてその時を待つ。ほとんど同時に息が漏れた。達也の息が荒い。
 私の体もびくん、びくんと反応する。
 私の顔の横に手をついて片手で肩を抱く。

 終っても達也は私の中にいたまま。「遥の中ってあったかいんだよ」そう言って動こうとしない。
 でもでも、避妊の意味がなくなっちゃうよ…と抵抗したら、「いいよ、子どもができたらいい」と聞く耳を持たない。
 勝手な言い分に腹が立った。
 やっとのことで達也から離れる。達也はまた私を捕まえる。
「子どもができたら、遥はずっとここにいるだろ? 不安にもさせないだろ?」と、掠れた声で言う。達也は私を抱きしめた。

「遥のこと不安にさせないようにって、いつも考えてるよ。でもあんなことですぐ不安になるんだろ? 俺が不安にさせてるんだろ?」
 最後のほうはちょっと声が大きくなった。
「…なんかいって。声聞かせて…」
 ああ、この人も、私と同じくらい不器用なところがあるんだ。
「ごめん…」やっとそれだけ言った。

「俺にどうして欲しい?」
 髪をなでながら顔を覗きこむ。一緒に住もうとか、指輪とか子どもとか、激しいセックスとか、なんでもいいから私を安心させようとしたのだろうか。笑ってしまう。どうして欲しいかと言われたら答えはひとつだ。
「私の就職が決まったら、ここに住んでもいい?」
 達也は返事の代わりに私を抱きしめた。
 お嫁さんも、子どもも、まだ私には現実的じゃない。でも達也にはいつだって触れていたい。自分勝手だと分かってて、達也を求めてる。パパの悲しい顔より、達也のそれのほうがずっと辛いよ。


2003/02/18
 達也が仕事帰りにうちに来た。ママだけには事情を話してあっ たので、驚いていたのはパパだけだった。達也はソファにパパ と向かい合って座り、私とママは食卓のテーブルから少し離れ て様子を見ていた。
「遥さんをうちに連れていきます」
 連れて行かせてください、じゃないのね。とママが私に耳打ち した。パパはすごく驚いた顔をして、私の方をパッと見た。達 也はそれだけ言ってパパを見ていた。
「もう決まってることなんだな」
 パパは私を見たままそう言って、達也に目で問い掛けた。達也がパパに何かを言って、パパも何かを答えていたけど、あんまり覚えてない。
 私はとにかく、ものすごい親不孝をしてしまったという罪悪感を感じていた。でもきっと反対はされないだろうなと思っていた。こういう場面を経験しないと、達也のところに行けないことも分かっていたから、ただただ早く時間が過ぎるのを待った。

 達也を見送る時、思わずパパの手を取った。前で手を振るママの後ろで、ぼんやりと立っていたパパ。小さな声で謝ったけど、パパには聞こえたんだろうか。
 私の薬指の指輪を見て、パパは「まいったなあ」と呟いた。
「もっと先の話だと思ってたよ、遥が出ていくのは」
 パパがそう言うと、ママは「変な男の人につかまっちゃうより、ずっとマシでしょう?」って、ちょっとずれた慰めの言葉をかけていた。


2003/02/21
 お昼からマンションに行ってシチューを作った。煮込んでいる間、ソファで本を読んでいたら、いつもより随分早く達也が帰ってきた。
 達也は私の顔を見るなり、「今日は来ないと思った…」と少し驚いた顔をした。おかえりのキスをしてコートとスーツを受けとって寝室のクローゼットにしまう。
 達也が部屋に入ってきて、珍しくネクタイもベルトも自分で戻した後、ベッドに座った。
 そのまま私の手をとって隣に座らせる。達也の眼鏡をとって、私の髪を結わいていたゴムをとって、キスをする。
「服、脱いで…」達也の言葉に驚いたけど、言う通りにした。
 カーディガンを脱いでシャツを脱いでジーンズを脱ぐ。靴下もキャミソールも脱いだ。達也は私をじっと見てる。恥ずかしくて目を見れない。達也に促されてベッドにあがる。手が後ろに回ってブラジャーも取られた。胸まである髪だけがあったかい。寒いのに、でも体は熱い。耳が熱い。

 達也の手が伸びてきて私の腕をなぞる。ぞわぞわととり肌が立つ。肩甲骨をなでる。
 わきの下、左胸、右の二の腕、背中、太ももの内側。私のほくろの位置を達也は全部知ってる。私の見たことのないほくろも全部。それをつつとつたって、キスをしてくる。いっぱいいやらしいことしてきてるのに、こんなことのほうがよっぽど恥ずかしい。

「かわいい」
 自慢じゃないけど達也が私を「かわいい」って言うなんてほとんどない。とにかく恥ずかしくて俯いた。
 シャツから伸びる手には時計が巻かれてあって、時々背中やおなかにあたって冷たい。太もももふくらはぎも触られた。

 達也は私より私の体を知ってる。体の生理も変化も誰より知ってる。私の体なのに自分だけの物じゃないみたい。達也の髪から煙草の匂いがした。今日はキスマークはつけられてない。そっと、まるで壊れものを扱うみたいにしてくれる。

 私は胸がもう少し大きければなと思う。足ももっとすっと伸びてたらなって思う。達也の手がなでる箇所がもっときれいな白い肌だったらいいのにって思う。達也がベッドの上のひざ掛けで私を包む。ひざ掛けの上から手をまわされる。達也に身を預けて耳の下にキスをした。
「やっばい、我慢できなくなる」
 達也のくちびるが私の首にあたった。
 振り向いて「いいよ…?」と目で言った。
「今日はしない。なんか今日は大事にしたいから」そう言って髪に顔をうずめた。
 大事にしたい!?
 わー…。今までそんなこと言われたことないのに。
 でもそれは大事にされてないってことじゃなくて、言葉にしないだけだった。達也はちゃんと私を大事にしてくれてる。

「寒い?」
 私は首を振って答える。
「おなかすいた?」
 達也は「減った…」と答えた。

 それから服を着てご飯を食べた。今までに何度も作ってあげていたけど、今日のシチューは今までで1番美味しいと良いと思った。


2003/02/22
 達也の友達の律くんに赤ちゃんが生まれたので会いにいった。 超・超・可愛かった。女の子で目がパッチリしててほっぺたが 柔らかくて、「ん、もう〜食べちゃいたいの!」と奥さんも言 うくらい可愛かった。私は従兄とか親戚の子どもの世話に慣れ ているので、赤ちゃんの抱っこもできる。柔らかくて軽くて羽 を抱いてるような気分だった。達也も抱いていたけど下手でお どおどしっぱなしだったから、赤ちゃんもすぐに泣いた。抱か れている子どもは抱いてくれてる人の気持ちが分かるんじゃな いかな。それとやっぱり女の人の柔らかい腕とか胸に安心する のかも。
 律くんは世に言うできちゃった結婚をした人で、ちょっと前ま で「俺が父親になれるんだろうか」ってうちでよく悩んでいた けど、今日会ったらしっかりパパの顔になっていた。赤ちゃん のお昼寝を邪魔しないように、律くんと3人でお茶をしに出た 時に、達也が私と同棲することを言った。
 律くんは「ちょっと前だったら100%祝福できたけど、女の子ども持っちゃうと、すんげー複雑だよ〜」と苦笑した。

「お前だって○○ちゃん(奥様)と同棲してただろー」達也が言うと
「だって俺もう、その立場で物事考えられないもん。もうパパ目線だもん」
 律くんは「〜だもん」っていうのが口癖。
「ってか俺はてっきり、遥ちゃんと結婚するっていうのかと思った」と言いながら律くんは私の薬指の指輪を指差した。
「でもキミたちの場合は、結婚っていっても他ほど変化はなさそうだけどね」
 変化はないだろうか。あんまり生活には変化はないかもしれない。けど、気持ちは大きく変わっていると思う。どんなふうにかはまだ分からないけど。

 マンションに戻る途中から、達也はなんだか考え込んでいた。
 駐車場に車をとめて、シートベルトを外そうとした私の手をとって、キスをした。そのまま手がスカートの中に手が伸びる。シートベルトを外してセーターの中に手を入れる。手の冷たさにビクンとなる。
「やだ…誰か来るよ…。…やめ…」
 抵抗してみたけど私の弱いところばかり責められて力が抜ける。
 首筋、鎖骨、唇が動くだけで濡れて来る。下着の横から指を入れられたのが分かった。私の体は達也を拒絶できない。人差し指と中指が入って、親指はクリをこする。見なくても分かる、じんわりと濡れてきている。

「…やめる?」
 やめられなくなってきてそんなことを聞く…。
「やめないで…」小さな声で答えた。
「足、もっと開いて」浅く座りなおして足を開く。
「スカート上まであげて」
 ロングスカートを裾からゆっくり持ち上げる。ブーツが見えて膝が見えて太ももがあらわになった。
「もっと」
 恥ずかしくて思わずスカートで顔を覆った。

 達也の手が下着にかかって下ろされる。暖房の効いた車内でシートが少し肌に張り付く。達也の指がまた少しずつ入っていく。声が出るのをスカートで押さえるのに必死だった。
 唇がふいにおなかに触れた。びくっとした。そのまま下に下がってクリを舌で転がす。
 おさえても声が出てしまう。割れ目に添って舌を差し込んでくる。
「すっごい濡れてる…、やらしい…」
 達也の言葉に足を閉じそうになる。それを手で押さえてわざと音をたてて舐められた。クチュクチュいう音しか聞こえない。達也が指を抜いて私の口に寄せた。
「舐めて…」
 つめの先からトロトロした液がしたたりおちそう。指の先を舌 でなぞると汗のような味がした。手をとって舌先で少しずつ舐 める。その間も片方の手で私を攻めつづける。入れられた指は 中を混ぜて撫でる。時々すごく気持ちいいところがある。達也 はそれを分かっててそこばかりを攻めたりはしない。回りをな ぞって時々軽く触れる。

 私の顔を見ながら達也は言う。
「欲しい?」
 頷いた。
「ちゃんと言わないとしない」
「…ほしい…」
「めちゃくちゃにしてもいいって言って?」
 耳元で囁かれる。
 達也の手が気持ちいいところばかり攻めてくる。粘り気のある液が絡まりついた指で私の髪を触る。もうどうでもよくなった。
「めちゃくちゃ…にして…」

 運転席を下りた達也がドアを開けて、私を車の後ろに連れてい った。4WDなので後ろに行くと前からは見えない。背後は壁 になってる。ちょっと恐かった。でも気持ちが昂ぶってどうで も良かった。
「そこに手、ついて。前のめりになって」
 ベルトを外してチャックを下ろす音が聞こえて、スカートがめくられた。モノが腰のあたりにあたった。すごく熱くて硬かった。そのまま入れられて何度も突かれた。
 口を塞がれて声が出せなかった。口を押さえる達也の指の間からよだれが垂れた。
 最中に2台、車が前を通って行った。わざと激しく動いて私に声を出させようとする。息が上がる。立っていられない。
「も…ダメ…」
 達也が私を車に押しつける。それからまた何度も攻められた。
 耳の後ろに達也の熱い息がかかる。荒くブラのホックを外して胸を掴む。痛くて声が出た。
「遥、まだだよ」
 掠れた声がそのまま耳を噛む。向きを変えて向かい合う。足の 間に達也の左足が入ってくる。私の右足をかかえて入ってくる 。さっきとは感覚が違う。こっちのほうがもっと奥にくる。達 也の首にしがみついて体を支える。体が痺れる。背中が痛い。 左足がつりそう。達也が唇を寄せてくる。モウロウとしながら キスをする。口の周りがべたべたした。達也がいくときの顔に なってきた。少し目の当たりが苦しそうになる。動きが激しく なるにつれて息が荒くなる。私は出ないようにしてたのも忘れ て声をあげた。
 中でビクンとする。達也が私の肩におでこをあてて息をする。 苦しそう。ゴムを外して服を整えた。なんかひりひりすると思 ったら胸の下のほうに引っかき傷がでいていた。

 部屋に戻ってもふたりとも話す気力がなかった。バスタブにお湯をはっている間、ソファで達也に寄りかかって座る。達也の手が私の頬を撫でた。車の埃がついて汚れてた。
 外でしたのは初めてじゃない。そんなにしょっちゅう発情したみたいにやるわけじゃないけど、ときどき達也が不意に襲い掛かってくる。
 でもめちゃくちゃにしてって口にしたのは初めて。頭の中では何度も思っていたけど、しかもめちゃくちゃにされることも結構あったけど、言わされたのは初めて。

「あー、もう、遥につられた、疲れた」
 私につられた?
「あんな顔して指舐められたら、誰だってやばいって」
 いつもの達也の顔になって言った。いじわるをしたくなって耳元で「めちゃくちゃにして…」と囁いてみる。
「…いいの? もっときついことしてもいい?」
 ああ、達也のほうが私より上手だ。

 慌ててお風呂場に逃げる。っていってもふたりで入るんだけど。
 ふたりで湯船に入るとかなり窮屈。達也の足の間に私が座って温まると、体が随分冷えてたことに気付いた。寒いのに駐車場なんかでするから。考えなしですね。
 達也が後ろから髪を編んでくれる。小さい頃よくミツアミをしてもらった時のことを思い出す。さっきのことをぼんやり思い出して、唐突に悲しくなった。もう、あんなことも知ってしまった。
 達也に言われたこと、何でもするようになった。訳もなくそのことが悲しかった。胸のあたりがムカムカした。
 達也以外の人とはあんなことしたくない。この人しか無理。
 達也のほうを向いてキスをした。お湯が小さな音を立てた。

「あたし、達也にならどんなことされてもいいよ」
 達也がちょっとあっけにとられた顔をした。喜んでくれるかと思っていたから意外だった。
「はるか…」
 達也は苦笑しながら言った。
「それ、意図的に言ってんの? まいったなー」
 私はちょっと怒った顔になって「本心だよ」と答えた。


プロフィール

HN:遥
年齢:21
彼氏:います。
経験人数:一人。今の彼氏のみ
メアド:こちら(悪戯、悪ふざけ等お断り)


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